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62.国王からの密書(SIDE:ジークヴァルト)

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ダミアンが持ち帰った国王からの密書を確認した途端、ジークヴァルトの眉間に深い皺が刻まれた。

「………主、何と答えますか?」

ダミアンの紫色の瞳が、じっとジークヴァルトを見つめると、ジークヴァルトは不快そうに顔を歪める。

「ここのところ、随分と表情が豊かになられたようで、何よりです」

クルル、と喉を鳴らすダミアンをギロリと睨めつけるとばさりと手紙を机の上に投げ出した。

「俺に今代巫女姫の護衛騎士を務めろとは………今の国王は狂ったのか?それとも新手の嫌がらせなのか?」
「見た限りは至って普通でしたよ?………食欲が落ちる程度には苦悩していたようですが………。それと、あの王には主に嫌がらせが出来るほどの度胸はないかと存じます」

おおよそ国王に関する会話とは思えないような内容を繰り広げると、ジークヴァルトはどかりと執務机の上にどかりと足を乗せた。

「俺が他の貴族とは関わりを持たないのを知っていて、それでもこんな要求をしてくるとは、よっぽど今代の騎士は人手が足りないようだな」

ジークヴァルトは深い溜息をついた。
アンネリーゼと関わってから、何か目に見えないものが大きく動き始めた気がした。
忘れていたはずの感情と表情がジークヴァルトに戻った。そして、今まで接点を持たないようにしていた他の貴族達との接点が生じ、更には国王直々に巫女姫の護衛騎士を任せたいとの依頼まで来てしまった。
それはまるで数百年止まってしまっていたジークヴァルトの時間が、急速に動き始めたかのようだった。

「それで、返事は?」

ダミアンはおそらくジークヴァルトの答えを知っている。
だが敢えてジークヴァルトの口から直接言わせようと画策しているのは明白だった。

「………俺も一応ヴァルツァーの臣民だからな。依頼は、受ける。………だが条件がある」
「条件、ですか」
「一つは、受けるにあたってクラルヴァイン辺境伯ジークヴァルトの名前は一切出さず、護衛騎士が俺だという事実も絶対に漏らさないこと。従って、を創り上げろと伝えてくれ」
「しかし主の風貌はかなり目立ちますが………」

ダミアンがわざとらしく首を傾げると、ジークヴァルトは舌打ちをしながら魔法詠唱を始める。
青白い光が、ジークヴァルトを包んだかと思うと、次の瞬間、ジークヴァルトは茶髪に茶色い瞳、そして整ってはいるものの平凡な容姿の青年に変わっていた。

「………なるほど、変身魔法ですか」

莫大な魔力を消費するために、近頃はめっきり見かけなくなった魔法。
ダミアン自身も、この魔法を重宝しているために、ジークヴァルトのこの選択には少し驚いたようだった。
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