呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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60.奇妙な答え

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「………逆にお訊きしますが、私は幾つに見えますか?」

凪いだ海のような、とても静かな声なのに、どうしてかその一番奥に、何か苦しみのようなものを感じてアンネリーゼは不思議に思った。

妙齢の貴婦人フラウに歳を尋ねるわけではないのだから、気を使う必要はないだろう。
それとも単に、先程感じた負の感情は全くの気の所為で、絶対に当てられない自信があるから謎かけをしているのだろうか。

「そうですわね………わたくしは今年十八歳ですが、わたくしよりも少し年上に見えますので二十歳、位でしょうか?」

見た目そのままの感想を、率直に口に出してみるが、ジークの表情は変わらなかった。

「………そうですか。ではそういうことにしましょう」

是でも非でもない、妙な答えが返ってきて、アンネリーゼの心は揺らぐ。
そういうことにする、ということは実年齢を知られたくないということなのだろうか。
アンネリーゼは不安になる。
護衛騎士は、文字通りアンネリーゼを自身の命と引き換えにしてでも守ってくれる。
いくら任務とはいっても、少しでも心を通わせたいという細やかな願いは完全に仇となったようだった。

「………気分を害されたのなら、謝罪致しますわ。わたくしはただ、あなたがさぞかし努力されてきた結果、若くして陛下の目に止まったのだと………」

彼を褒めるつもりなのに、言い訳じみた雰囲気になってしまう。
それもまた申し訳なくて、アンネリーゼは口籠る。

「あなたは、仮にも侯爵令嬢で女神から選ばれた巫女姫なのですから、私のような一介の騎士に無闇に頭を下げるべきではないでしょう」

相変わらずの冷たさは、まるでアンネリーゼを突き放そうとしている気がしてきて、アンネリーゼの心はさざ波のが起きたかのように暴れた。
もしかしたら無くしている過去の中で、彼と逢った事があるのかもしれないという小さな疑問が、アンネリーゼの中で確信に変わっていく。

「しかし、褒め言葉だけはありがたく頂いておきましょう」

笑うでもなく、怒るでもないジークの仮面のような顔は憂いを帯びて、やはり誰か別の人物の顔を彷彿とさせるのに、その浮かび上がってきた別の誰かの顔もまたぼんやりと浮かび上がって消えてしまい、肝心の答えだけが永遠にみつからないような、そんなもどかしい気持ちに襲われた。

「………話がそれだけであれば、私はこれで失礼します。美味しいお茶をどうもご馳走さまでした」

形式だけの挨拶は、時には人を傷つける事ができるのだとアンネリーゼは落ち着かない。
それでも、立ち上がって今度こそ立ち去ろうとしているジークに、疑問をぶつけた。本気まじ

「………ジーク様と、以前どこかでお会いしたことはございませんでしたか?」

その瞬間、ジークの瞳はこれ以上ないくらいに目を見開き、信じられないものを見るかのようにアンネリーゼを見つめた。
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