上 下
57 / 230

57.護衛騎士

しおりを挟む
その日は、日が昇る前からアンネリーゼは聖殿内で身を清め、純白のドレスを身に纏う。

「本来であればフォイルゲンから直接クルツへと入国する予定でしたので、本来予定していた経路とは異なりますが、問題なければ四日ほどでクルツの都に到着出来るかと存じます」

イェルクは一通りの説明をアンネリーゼにしたあと、一人の騎士を連れてきた。

「ご紹介が遅くなり申し訳ございません。此度より巫女姫の護衛騎士を務めますです」

巫女姫の護衛騎士のみ着用が許される、純白の騎士服を纏った背の高い男性が、アンネリーゼに向かって騎士の礼をとった。

「お初にお目にかかります、巫女姫様。ジーク・バルテルと申します」

平凡な栗色の髪に、同じく平凡な茶色の瞳をした、年若い青年だった。顔はそこそこ整っているが、驚くほどの美形という程ではない。
それなのに、アンネリーゼは彼の姿を見た途端に胸の奥がざわめくのを感じた。

ここのところ色々な事がありすぎて、少し気持ちが不安定になっているのだろうか。
アンネリーゼは不思議に思いながらも、ジークに向かって微笑みかける。

「アンネリーゼ・モルゲンシュテルンと申します。これから、よろしくお願い致しますね」

そう言いながら、どうしてか暴れる心臓を、落ち着かせようと深呼吸をしてみるが、うまくいかない。

「ジークは私の縁者ですが、魔法と剣の腕は確かですので、心配は御無用です」

イェルクがいつもと変わらぬ柔和な笑みを向けながら教えてくれたが、その表情がいつもとは違って見えた気がした。

「必ずや巫女姫様の御身をお守り致します」

そう言って顔を上げたジークの瞳が、ほんの一瞬金色に見えた気がしてアンネリーゼははっと息を呑んだ。

「………何か私の顔についていましたか?」

アンネリーゼの反応に気がついたのか、ジークはアンネリーゼの顔をじっと見つめてくる。
アンネリーゼもジークの顔を見返したが、やはり彼の瞳は茶色だった。

「あ、いえ…………」

やはり、見間違いだったのかと落胆する自分に気がついて、アンネリーゼは困ったようにジークから視線を外した。

「問題がないようであれば、そろそろ出立の時間になりますので、馬車の方にご移動願います」
「………分かりました」

うっすらと笑みを浮かべたジークがアンネリーゼに手を差し出す。
そんな彼の手に、自分の手を重ね合わせた瞬間、一際強く、アンネリーゼの心臓が跳ねた。

(………わたくし、一体どうしてしまったのかしら…………)

ジークと触れている部分が、頬が酷く熱く感じて、アンネリーゼは戸惑いながら、視線を泳がせたのだった。
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...