呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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56.条件(SIDE:ダミアン)

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その頃、ヴァルツァー国王ゲルハルトは、厳つい顔を更に厳しく歪めていた。
その表情は、ゲルハルトの顔を見慣れているはずの側近たちも恐れ慄く程のもので、いつの間にか周囲には誰もいなくなっていた。

「どうも、ヴァルツァー国王陛下」

ばさりと羽音がして、開け放った窓の方に視線を向けると、黒い大鷹が何の躊躇いもなく舞い降りてきた。

「………ダミアンよ。一応この城には、魔物の侵入を防ぐためのが張り巡らされているのだから、少しは遠慮して入って欲しいのだが………」

大きな手で赤毛をがしがしと掻き毟ると、ゲルハルトは溜息をつく。だが、ゲルハルトの表情は先程よりも穏やかになり、僅かに安堵の色も伺える。

「あぁ………それは気が利かずに申し訳ありませんでした。結界がある事自体忘れてしまっておりましたよ。…安全を考慮するのなら、………もう少し強力な結界か、防御壁をお勧めしますよ」

大鷹はすまなそうに首を下げた。

「それはお前の主に依頼するのが一番だろうが………その主の返事はどうだったのだ?」

碧い目をギラリと光らせるが、ダミアンは全く怯む様子を見せず、紫色の瞳でじっとゲルハルトを見つめる。

「…………謹んでお受けします、と」

ダミアンが静かに告げると、驚いたようにゲルハルトは目を見開いた。

「それは誠か?!」

信じられないといったふうに、ゲルハルトはダミアンのいる窓の縁に歩み寄る。

「はい。間違いなく、そう仰いました。………但し、引き受けるためには条件があると………。それが呑めないのであれば、この件は聞かなかったことにしてもらいたいとの事です」

それを聞いて、ゲルハルトの表情がみるみる険しくなるのが見て取れて、ダミアンは嘆息した。

「為政者たるもの、そう簡単に感情を顔に出すものではありませんよ」
「………煩い。それで、その条件というのは一体何なのだ?」

訝しげに眉を顰めたゲルハルトに、ダミアンは小さな声で主からの言葉をそっくりそのまま伝えると、ゲルハルトは顎髭へと手を伸ばして、ゆっくりと考えを巡らす。

「………どのみち、私に拒否するという選択肢は含まれていないのだ。辺境伯に断られたら完全にアテがなくなってしまうのだからな」

ゲルハルトは溜息をつくと、ダミアンの紫色の双眸を見る。

「いいだろう。その条件を飲むと、辺境伯には伝えてくれ。その代わり、来月までには頼むとの返事を急ぎ伝えてくれ」
「………分かりました」

短く返事をすると、ダミアンは慌ただしそうに羽を翻した。
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