56 / 230
56.条件(SIDE:ダミアン)
しおりを挟む
その頃、ヴァルツァー国王ゲルハルトは、厳つい顔を更に厳しく歪めていた。
その表情は、ゲルハルトの顔を見慣れているはずの側近たちも恐れ慄く程のもので、いつの間にか周囲には誰もいなくなっていた。
「どうも、ヴァルツァー国王陛下」
ばさりと羽音がして、開け放った窓の方に視線を向けると、黒い大鷹が何の躊躇いもなく舞い降りてきた。
「………ダミアンよ。一応この城には、魔物の侵入を防ぐための強力な結界が張り巡らされているのだから、少しは遠慮して入って欲しいのだが………」
大きな手で赤毛をがしがしと掻き毟ると、ゲルハルトは溜息をつく。だが、ゲルハルトの表情は先程よりも穏やかになり、僅かに安堵の色も伺える。
「あぁ………それは気が利かずに申し訳ありませんでした。結界がある事自体忘れてしまっておりましたよ。…安全を考慮するのなら、………もう少し強力な結界か、防御壁をお勧めしますよ」
大鷹はすまなそうに首を下げた。
「それはお前の主に依頼するのが一番だろうが………その主の返事はどうだったのだ?」
碧い目をギラリと光らせるが、ダミアンは全く怯む様子を見せず、紫色の瞳でじっとゲルハルトを見つめる。
「…………謹んでお受けします、と」
ダミアンが静かに告げると、驚いたようにゲルハルトは目を見開いた。
「それは誠か?!」
信じられないといったふうに、ゲルハルトはダミアンのいる窓の縁に歩み寄る。
「はい。間違いなく、そう仰いました。………但し、引き受けるためには条件があると………。それが呑めないのであれば、この件は聞かなかったことにしてもらいたいとの事です」
それを聞いて、ゲルハルトの表情がみるみる険しくなるのが見て取れて、ダミアンは嘆息した。
「為政者たるもの、そう簡単に感情を顔に出すものではありませんよ」
「………煩い。それで、その条件というのは一体何なのだ?」
訝しげに眉を顰めたゲルハルトに、ダミアンは小さな声で主からの言葉をそっくりそのまま伝えると、ゲルハルトは顎髭へと手を伸ばして、ゆっくりと考えを巡らす。
「………どのみち、私に拒否するという選択肢は含まれていないのだ。辺境伯に断られたら完全にアテがなくなってしまうのだからな」
ゲルハルトは溜息をつくと、ダミアンの紫色の双眸を見る。
「いいだろう。その条件を飲むと、辺境伯には伝えてくれ。その代わり、来月までには頼むとの返事を急ぎ伝えてくれ」
「………分かりました」
短く返事をすると、ダミアンは慌ただしそうに羽を翻した。
その表情は、ゲルハルトの顔を見慣れているはずの側近たちも恐れ慄く程のもので、いつの間にか周囲には誰もいなくなっていた。
「どうも、ヴァルツァー国王陛下」
ばさりと羽音がして、開け放った窓の方に視線を向けると、黒い大鷹が何の躊躇いもなく舞い降りてきた。
「………ダミアンよ。一応この城には、魔物の侵入を防ぐための強力な結界が張り巡らされているのだから、少しは遠慮して入って欲しいのだが………」
大きな手で赤毛をがしがしと掻き毟ると、ゲルハルトは溜息をつく。だが、ゲルハルトの表情は先程よりも穏やかになり、僅かに安堵の色も伺える。
「あぁ………それは気が利かずに申し訳ありませんでした。結界がある事自体忘れてしまっておりましたよ。…安全を考慮するのなら、………もう少し強力な結界か、防御壁をお勧めしますよ」
大鷹はすまなそうに首を下げた。
「それはお前の主に依頼するのが一番だろうが………その主の返事はどうだったのだ?」
碧い目をギラリと光らせるが、ダミアンは全く怯む様子を見せず、紫色の瞳でじっとゲルハルトを見つめる。
「…………謹んでお受けします、と」
ダミアンが静かに告げると、驚いたようにゲルハルトは目を見開いた。
「それは誠か?!」
信じられないといったふうに、ゲルハルトはダミアンのいる窓の縁に歩み寄る。
「はい。間違いなく、そう仰いました。………但し、引き受けるためには条件があると………。それが呑めないのであれば、この件は聞かなかったことにしてもらいたいとの事です」
それを聞いて、ゲルハルトの表情がみるみる険しくなるのが見て取れて、ダミアンは嘆息した。
「為政者たるもの、そう簡単に感情を顔に出すものではありませんよ」
「………煩い。それで、その条件というのは一体何なのだ?」
訝しげに眉を顰めたゲルハルトに、ダミアンは小さな声で主からの言葉をそっくりそのまま伝えると、ゲルハルトは顎髭へと手を伸ばして、ゆっくりと考えを巡らす。
「………どのみち、私に拒否するという選択肢は含まれていないのだ。辺境伯に断られたら完全にアテがなくなってしまうのだからな」
ゲルハルトは溜息をつくと、ダミアンの紫色の双眸を見る。
「いいだろう。その条件を飲むと、辺境伯には伝えてくれ。その代わり、来月までには頼むとの返事を急ぎ伝えてくれ」
「………分かりました」
短く返事をすると、ダミアンは慌ただしそうに羽を翻した。
21
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる