上 下
55 / 230

55.忍び寄る闇(SIDE:ギュンター)※ほんの少しR18です

しおりを挟む
「もぉっ!どうしてなのよぉっ?!」

金切り声と共にガシャンという鋭い音がして、壁当たった花瓶が、跡形もなく砕け散った。

「怒鳴っても仕方ないじゃないか」

王都にある、ノイマン伯爵邸の一室。
フローラ・クラネルト男爵令嬢の傍らで、同じく苛立った様子のギュンター・ノイマン伯爵が、見た目だけは整った顔を歪めた。

「だって、あの女がもてはやされるのを指を咥えて見ているなんて、屈辱以外の何物でもないわっ!こんなの間違ってるでしょう?!ねぇ、ギュンター様っ?」

再び派手に陶器が割れる音がして、今度はテーブルに置かれたティーポットが無惨な姿に変わる。
だが、人払いをした室内にはそれを片付ける者はおらず、ポットに入っていた琥珀色の液体がぽたりぽたりと床に染みを作っていくのを眺めながら、ギュンターは自身の婚約者の肩を抱く。

「落ち着けよ、フローラ。暴れたってどうしようもない。下手に動いたらモルゲンシュテルン侯爵家に気が付かれる。あのジジィは蛇みたいな奴だからな。今は大人しく『あの女』の言うとおりにしておくほかはないんだ。………いいなりになるのは少し癪にさわるが、仕方ない。………いずれ奴らにはが下るはずだ。この俺に恥をかかせたんだからな…………」
「でも、ギュンター様?この前は言うとおりにしたのに、邪魔が入ったのよ?私はちゃあんとやったのに!あの女は本当に信用して大丈夫なんですかぁ?」

フローラの可愛らしい顔が、怒りで真っ赤に染まる。
春の野を思わせるような若草色の瞳も強い憎しみでどろりと濁って見える。

「奴らに対抗するには、他に方法はない。それにフローラ………これは全てお前の為なんだ。愛しいお前の為に、この俺が直々にアンネリーゼを苦しめようと努力しているんじゃないか」
「ギュンター様ぁ………」

泣きじゃくりながら、先程の金切り声とはまるで違う、可愛らしく甘えた声を上げながらフローラはギュンターに縋り付いた。

「………とにかく今は『あの女』の指示通りに動くしかないんだ。賢くて可愛いフローラなら、分かってくれるな?」
「あっ………ギュンター………さまぁ………」

耳元でギュンターが囁くと、フローラは蕩けたような表情を浮かべて、甘い吐息を漏らす。

「あ………まだ、昼間なのにぃ………っ」
「愛を確かめ合うのに、昼も夜も関係ないだろう?」

フローラの細い首に舌を這わせながら、ギュンターはアンネリーゼに想いを馳せる。
そして、仄暗い笑みを浮かべながら、欲望のままにフローラを貪るのだった。
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...