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53.秘された事実(3)

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「奴らは何の非もないお前を、罵って貶めようとした。婚約者への配慮が足りないだの、魔力が多いことをひけらかして馬鹿にしているなどというつまらない理由をつけてな。………実際は、多くの女性と遊び歩く事をお前に注意された事が気に食わなかったらしいが………」

侯爵の、強く握りしめられた拳が、わなわなと震える。

「心情的にはその場で殺してやりたかったが、あのような輩でも爵位持ちだからな。表面上は穏便に、婚約破棄の了承とそれに伴う慰謝料の請求だけで済ませた。………二度と我が侯爵家に………そして何よりおまえに関わらないという条件を付してな」

だから今まで、自分の耳にギュンター・ノイマンの情報が入ってこなかったのだと、アンネリーゼは納得した。

「………だがその後、お前が巫女姫に選ばれた事で様々な情勢が変わった。クラネルト男爵は、自分の娘が巫女姫に選ばれると社交界で触れ回っていたが女神はあの小娘を選ばずにお前を選んだ。………クラネルト男爵家の信用は失墜し、その婚約者であるノイマン伯爵家も同じく社交界の笑いものになった」

その点についてはある程度の想像がついた。
フローラの顔を思い出しながら、アンネリーゼはそっと目を伏せる。

「………クラネルト男爵令嬢も、気の毒な方なのですね」
「莫迦を言うな。あの小娘は父親同様、自己顕示欲の塊のような人間だぞ」

再び深い溜息をつくと、侯爵は窓の外を見る。
そして木の枝に一羽の大鷹が止まっているのを眺めながら話を続けた。

「………お前が巫女姫に選ばれたのは、モルゲンシュテルン侯爵家うちが権力を使ってそう仕向けたのであり、女神が選んだ真の巫女姫はクラネルト男爵令嬢だという噂話を流したらしいが、聖殿がそれを真っ向から否定したためにさらなる嘲笑の対象になった。…………自分達の言動が自分達を貶めているということに気が付かないという点では、お前の言うとおり哀れなのかもしれぬな」

アンネリーゼに向き直った侯爵は、うっすらと笑みを浮かべた。

「辛い記憶など、知らないままのほうがいいと思い、敢えてこの事実を隠していたが、それは利己心だったようだ。私の考えのせいで、随分と不安な思いをさせてしまったようだ。…………すまなかったな」

先程までの激しい怒りはなりを潜め、穏やかで、優しい父の声音がアンネリーゼの心を温かく包み込む。
アンネリーゼは父の深い愛情を感じて、涙が込み上げてくるのを感じた。
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