53 / 230
53.秘された事実(3)
しおりを挟む
「奴らは何の非もないお前を、罵って貶めようとした。婚約者への配慮が足りないだの、魔力が多いことをひけらかして馬鹿にしているなどというつまらない理由をつけてな。………実際は、多くの女性と遊び歩く事をお前に注意された事が気に食わなかったらしいが………」
侯爵の、強く握りしめられた拳が、わなわなと震える。
「心情的にはその場で殺してやりたかったが、あのような輩でも爵位持ちだからな。表面上は穏便に、婚約破棄の了承とそれに伴う慰謝料の請求だけで済ませた。………二度と我が侯爵家に………そして何よりおまえに関わらないという条件を付してな」
だから今まで、自分の耳にギュンター・ノイマンの情報が入ってこなかったのだと、アンネリーゼは納得した。
「………だがその後、お前が巫女姫に選ばれた事で様々な情勢が変わった。クラネルト男爵は、自分の娘が巫女姫に選ばれると社交界で触れ回っていたが女神はあの小娘を選ばずにお前を選んだ。………クラネルト男爵家の信用は失墜し、その婚約者であるノイマン伯爵家も同じく社交界の笑いものになった」
その点についてはある程度の想像がついた。
フローラの顔を思い出しながら、アンネリーゼはそっと目を伏せる。
「………クラネルト男爵令嬢も、気の毒な方なのですね」
「莫迦を言うな。あの小娘は父親同様、自己顕示欲の塊のような人間だぞ」
再び深い溜息をつくと、侯爵は窓の外を見る。
そして木の枝に一羽の大鷹が止まっているのを眺めながら話を続けた。
「………お前が巫女姫に選ばれたのは、モルゲンシュテルン侯爵家が権力を使ってそう仕向けたのであり、女神が選んだ真の巫女姫はクラネルト男爵令嬢だという噂話を流したらしいが、聖殿がそれを真っ向から否定したためにさらなる嘲笑の対象になった。…………自分達の言動が自分達を貶めているということに気が付かないという点では、お前の言うとおり哀れなのかもしれぬな」
アンネリーゼに向き直った侯爵は、うっすらと笑みを浮かべた。
「辛い記憶など、知らないままのほうがいいと思い、敢えてこの事実を隠していたが、それは利己心だったようだ。私の考えのせいで、随分と不安な思いをさせてしまったようだ。…………すまなかったな」
先程までの激しい怒りはなりを潜め、穏やかで、優しい父の声音がアンネリーゼの心を温かく包み込む。
アンネリーゼは父の深い愛情を感じて、涙が込み上げてくるのを感じた。
侯爵の、強く握りしめられた拳が、わなわなと震える。
「心情的にはその場で殺してやりたかったが、あのような輩でも爵位持ちだからな。表面上は穏便に、婚約破棄の了承とそれに伴う慰謝料の請求だけで済ませた。………二度と我が侯爵家に………そして何よりおまえに関わらないという条件を付してな」
だから今まで、自分の耳にギュンター・ノイマンの情報が入ってこなかったのだと、アンネリーゼは納得した。
「………だがその後、お前が巫女姫に選ばれた事で様々な情勢が変わった。クラネルト男爵は、自分の娘が巫女姫に選ばれると社交界で触れ回っていたが女神はあの小娘を選ばずにお前を選んだ。………クラネルト男爵家の信用は失墜し、その婚約者であるノイマン伯爵家も同じく社交界の笑いものになった」
その点についてはある程度の想像がついた。
フローラの顔を思い出しながら、アンネリーゼはそっと目を伏せる。
「………クラネルト男爵令嬢も、気の毒な方なのですね」
「莫迦を言うな。あの小娘は父親同様、自己顕示欲の塊のような人間だぞ」
再び深い溜息をつくと、侯爵は窓の外を見る。
そして木の枝に一羽の大鷹が止まっているのを眺めながら話を続けた。
「………お前が巫女姫に選ばれたのは、モルゲンシュテルン侯爵家が権力を使ってそう仕向けたのであり、女神が選んだ真の巫女姫はクラネルト男爵令嬢だという噂話を流したらしいが、聖殿がそれを真っ向から否定したためにさらなる嘲笑の対象になった。…………自分達の言動が自分達を貶めているということに気が付かないという点では、お前の言うとおり哀れなのかもしれぬな」
アンネリーゼに向き直った侯爵は、うっすらと笑みを浮かべた。
「辛い記憶など、知らないままのほうがいいと思い、敢えてこの事実を隠していたが、それは利己心だったようだ。私の考えのせいで、随分と不安な思いをさせてしまったようだ。…………すまなかったな」
先程までの激しい怒りはなりを潜め、穏やかで、優しい父の声音がアンネリーゼの心を温かく包み込む。
アンネリーゼは父の深い愛情を感じて、涙が込み上げてくるのを感じた。
21
お気に入りに追加
946
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
(完結)バツ2旦那様が離婚された理由は「絶倫だから」だそうです。なお、私は「不感症だから」です。
七辻ゆゆ
恋愛
ある意味とても相性がよい旦那様と再婚したら、なんだか妙に愛されています。前の奥様たちは、いったいどうしてこの方と離婚したのでしょうか?
※仲良しが多いのでR18にしましたが、そこまで過激な表現はないかもしれません。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる