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46.古い伝説
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その日は、アンネリーゼはいつもより早く就寝した。
窓から覗く三日月は薄っすらと赤味がかっていて、美しさの中にも禍々しさを含んでいるような気がして、見えないように厚手のカーテンを降ろすと、窓の方に背を向ける。
息が詰まりそうなほどの静寂が室内に漂っていて、アンネリーゼはぎゅっと目を瞑るが、身体は疲れているのに、精神が精神が昂っているせいか、なかなか寝付けなかった。
「………駄目だわ………」
一時間ほど寝台に横たわってみたが、アンネリーゼに睡魔が襲ってくることは無かった。
仕方なく、寝台から降りるとテーブルの上に用意された燭台に炎魔法で小さな光を点すと、その机とセットで置かれているソファへと腰を降ろした。
薄暗い部屋をぐるりと見回すと、ふと机の上に無造作に置かれた例の本が自己主張を始める。
「この本…………」
アンネリーゼは徐に手を伸ばしてその本を手に取ってみた。
薄明かりのせいで文字どころか相手の顔すらとよく見えないような表示に刻まれた金字を、アンネリーゼは指で辿った。
「クラル………ヴァイン辺境伯領の、歴史書……………?」
その名前を口にした瞬間、大きく心臓が跳ねた。
美しい不協和音のような、妙な感覚に囚われた。
クラルヴァイン辺境伯とは、アンネリーゼを助けた人ではなかっただろうか。
「どうして…………?」
不安なような、嬉しいような、表現し難い感情が沸き起こってきて、アンネリーゼはじっと金の刻印を見つめた。
「その話、面白いですよね。とある地方の、古い伝説だそうですよ」
別れ際にダンの言った言葉が蘇ってきて、アンネリーゼはゆっくりと拍子を捲った。
そこに綴られていたのは、アンネリーゼと同じ巫女姫が、病で命を落とし、女神の加護が受けられなくなった時に、彼女の護衛騎士だったクラルヴァイン辺境伯の息子が、襲い来る魔物達と死闘を繰り広げるという壮大な物語だった。
しかし、その護衛騎士は強大な力を持つ魔女により呪いをかけられ、今もどこかを彷徨っていると書かれていた。
「巫女姫と、護衛騎士………」
たまたま目に留まったこの本に描かれていたのは、ただの偶然とは思えなかった。
それに、もう一つアンネリーゼの胸をざわつかせるものがあった。
それは、護衛騎士の絵姿。
黒い髪に金色の瞳の絶世の美男子。
それは、時折アンネリーゼの脳裏に浮かぶ謎の青年の持つ特徴と完全に一致していた。
「どうして、こんなに胸がざわつくのかしら………」
アンネリーゼは本を閉じると、その本を大切そうに、ぎゅっと抱き締めた。
窓から覗く三日月は薄っすらと赤味がかっていて、美しさの中にも禍々しさを含んでいるような気がして、見えないように厚手のカーテンを降ろすと、窓の方に背を向ける。
息が詰まりそうなほどの静寂が室内に漂っていて、アンネリーゼはぎゅっと目を瞑るが、身体は疲れているのに、精神が精神が昂っているせいか、なかなか寝付けなかった。
「………駄目だわ………」
一時間ほど寝台に横たわってみたが、アンネリーゼに睡魔が襲ってくることは無かった。
仕方なく、寝台から降りるとテーブルの上に用意された燭台に炎魔法で小さな光を点すと、その机とセットで置かれているソファへと腰を降ろした。
薄暗い部屋をぐるりと見回すと、ふと机の上に無造作に置かれた例の本が自己主張を始める。
「この本…………」
アンネリーゼは徐に手を伸ばしてその本を手に取ってみた。
薄明かりのせいで文字どころか相手の顔すらとよく見えないような表示に刻まれた金字を、アンネリーゼは指で辿った。
「クラル………ヴァイン辺境伯領の、歴史書……………?」
その名前を口にした瞬間、大きく心臓が跳ねた。
美しい不協和音のような、妙な感覚に囚われた。
クラルヴァイン辺境伯とは、アンネリーゼを助けた人ではなかっただろうか。
「どうして…………?」
不安なような、嬉しいような、表現し難い感情が沸き起こってきて、アンネリーゼはじっと金の刻印を見つめた。
「その話、面白いですよね。とある地方の、古い伝説だそうですよ」
別れ際にダンの言った言葉が蘇ってきて、アンネリーゼはゆっくりと拍子を捲った。
そこに綴られていたのは、アンネリーゼと同じ巫女姫が、病で命を落とし、女神の加護が受けられなくなった時に、彼女の護衛騎士だったクラルヴァイン辺境伯の息子が、襲い来る魔物達と死闘を繰り広げるという壮大な物語だった。
しかし、その護衛騎士は強大な力を持つ魔女により呪いをかけられ、今もどこかを彷徨っていると書かれていた。
「巫女姫と、護衛騎士………」
たまたま目に留まったこの本に描かれていたのは、ただの偶然とは思えなかった。
それに、もう一つアンネリーゼの胸をざわつかせるものがあった。
それは、護衛騎士の絵姿。
黒い髪に金色の瞳の絶世の美男子。
それは、時折アンネリーゼの脳裏に浮かぶ謎の青年の持つ特徴と完全に一致していた。
「どうして、こんなに胸がざわつくのかしら………」
アンネリーゼは本を閉じると、その本を大切そうに、ぎゅっと抱き締めた。
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