呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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43.介抱

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朦朧とする意識の中で、誰かの声がした。

「………これが主に知れたら殺されそうですね………」

困ったような声を聞いた後、バサリと翼を広げるような音がした気がした。
その直後に、まるで霧が晴れていくかのように頭痛が消えていく。

「モルゲンシュテルン侯爵令嬢?」

呼び掛ける声にはっとして、目を開けると、ダンの綺麗な顔がアンネリーゼを覗き込んでいた。

「………わたくし………?」
「良かった。すみません、あまりに辛そうだったので、休憩室を借りて運ばせて頂きました」

穏やかな口調でダンが告げる。
そう広くはない、質素な作りの部屋に置かれたソファに座らされていることに気がついたアンネリーゼは、ぐるりと室内を見渡す。
室内は図書館よりも明るいが、それでも漂っている独特の空気は確かに図書館のものと同じだった。

「申し訳ございませんでした…………!その、急に体調が悪くなってしまって………」

そう言いながら、必死に記憶を辿る。
はっきりとは覚えていないが、頭痛におそわれているダンの胸に擦り寄ったような気がして、恥ずかしさに少し俯いた。

「いえ、お気になさらず。もう、何ともありませんか?」

ダンの、美しい橙色の瞳が優しく細められる。

「え、ええ………。このような事は今まで無かったのですけれど………。念の為、早急に屋敷へ戻りますわ。ダン様には、ご迷惑をお掛け致しました」
「モルゲンシュテルン侯爵令嬢に『様』などと呼ばれるような身分ではありませんので、どうぞダン、とお呼び下さい」
「………ダンさんは、貴族ではないのですか?」

アンネリーゼは、迷いながらさん付けでダンを呼んでみると、ダンは少し困ったような顔をした。

「それは、お答え出来ませんが………私はとある方にお仕えしていて、その方の命令でここにいるのですよ。しかし、本当に大事にならなくて良かったです」
「ありがとうございます。本日の事は父に話して後日改めてお礼をさせていただきますね。それで、ダンさんの主というのはどなたでしょう?」

アンネリーゼの問いかけに、ダンは少し慌てた様子だった。

「あ、いえ………礼には及びません。困った人を助けるのは当然ですし、逆にお礼などされたら余計なことをしたと主に叱られますので………」

人助けは余計なことなのだろうかと不思議に思いながらも、アンネリーゼは頷いた。

「そう、ですか。ダンさんのご迷惑になるのでしたら、止めておきます。………でも、クラネルト男爵令嬢から責められていたところも庇って頂いて………本当に助かりました。こんな事を言っても仕方ありませんが、わたくし、記憶を失くしているせいで分からないことが多すぎて、不安になるのです」

アンネリーゼはそう言うと、儚げに微笑んだ。
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