41 / 230
41.助け
しおりを挟む
「なぁ~んだ………記憶はなくても、イイ子っぷりは変わらないんですねぇ?ホント、つまんない人」
わざとらしい盛大な溜息をつくと、嘲りの笑みを浮かべた。
「…………」
アンネリーゼは黙ったまま、ぎゅっと手にした本を抱き締めた。
先日マルクスから向けられた怒りの感情とは異なる、敵意と憎悪にアンネリーゼは戸惑うしかなかった。
「でも、そうしていられるのも、今のうちだけかもしれませんよぉ?身の回りに不幸が起きた巫女姫なんて縁起が悪いって、みんな言ってます」
つやつやとした桜貝のような可愛らしい唇が、意地悪く歪む。
「アンネリーゼ様が巫女姫に選ばれたのだって、侯爵家の権力を使ったんじゃないんですかぁ?」
女神や聖殿への冒涜とも取れる発言に、アンネリーゼは目を見開いた、その時だった。
「それは聞き捨てならない言葉ですね」
二人の間に割って入るように、一人の男性が姿を現した。
濃い茶色の、長い髪を後ろで緩く束ね、上品なダークブラウンのジャケットを着こなした端麗な容姿の青年で、齢は見たところニ十代だろうか。
「巫女姫の選定には何人たりとも干渉ができないということは、この地に住まう者であれば誰でも知っている事でしょう」
青年の黒い瞳が令嬢を捉えると、令嬢は怯えたように息を呑んだ。
「わたしはっ、そういう噂があるからアンネリーゼ様に教えて差し上げようとしたんですぅ」
先程アンネリーゼへと向けていた激しい敵意などまるでなかったかのように、令嬢はふわりと天使のような微笑みを浮かべた。
そして、媚びるような上目遣いで青年を見る。
「あの、お会いするのは初めてだと思うんですけどぉ………どちらの家のご子息ですかぁ?あ、わたしはクラネルト男爵令嬢のフローラと言いますぅ」
アンネリーゼが訊ねても答えなかったのに、青年には訊かれてもいないのに名乗る令嬢の名と家名を、アンネリーゼは漸く知ることが出来た。
しかしそもそも自分で『男爵令嬢』と名乗るのはどうなのだろうと考えながら、二人のやり取りを見守った。
「………私はダミ………ダンとと申しますが、家名は訳あってお話出来ません。………しかし、私の名を訊ねる暇があれば、先程の無礼な態度をモルゲンシュテルン侯爵令嬢に謝罪すべきだと思いますが?」
ダンと名乗った冷たい視線を受けて、フローラの表情が不満げに歪んだ。
「どうして私がアンネリーゼ様に謝る必要があるんですかぁ?わたしたち、お友達同士でただ仲良く話をしていただけなのに………ねぇ、アンネリーゼ様っ?」
フローラは、ダンの背後にいるアンネリーゼに、見た目だけは完璧な笑顔を向けてきた。
わざとらしい盛大な溜息をつくと、嘲りの笑みを浮かべた。
「…………」
アンネリーゼは黙ったまま、ぎゅっと手にした本を抱き締めた。
先日マルクスから向けられた怒りの感情とは異なる、敵意と憎悪にアンネリーゼは戸惑うしかなかった。
「でも、そうしていられるのも、今のうちだけかもしれませんよぉ?身の回りに不幸が起きた巫女姫なんて縁起が悪いって、みんな言ってます」
つやつやとした桜貝のような可愛らしい唇が、意地悪く歪む。
「アンネリーゼ様が巫女姫に選ばれたのだって、侯爵家の権力を使ったんじゃないんですかぁ?」
女神や聖殿への冒涜とも取れる発言に、アンネリーゼは目を見開いた、その時だった。
「それは聞き捨てならない言葉ですね」
二人の間に割って入るように、一人の男性が姿を現した。
濃い茶色の、長い髪を後ろで緩く束ね、上品なダークブラウンのジャケットを着こなした端麗な容姿の青年で、齢は見たところニ十代だろうか。
「巫女姫の選定には何人たりとも干渉ができないということは、この地に住まう者であれば誰でも知っている事でしょう」
青年の黒い瞳が令嬢を捉えると、令嬢は怯えたように息を呑んだ。
「わたしはっ、そういう噂があるからアンネリーゼ様に教えて差し上げようとしたんですぅ」
先程アンネリーゼへと向けていた激しい敵意などまるでなかったかのように、令嬢はふわりと天使のような微笑みを浮かべた。
そして、媚びるような上目遣いで青年を見る。
「あの、お会いするのは初めてだと思うんですけどぉ………どちらの家のご子息ですかぁ?あ、わたしはクラネルト男爵令嬢のフローラと言いますぅ」
アンネリーゼが訊ねても答えなかったのに、青年には訊かれてもいないのに名乗る令嬢の名と家名を、アンネリーゼは漸く知ることが出来た。
しかしそもそも自分で『男爵令嬢』と名乗るのはどうなのだろうと考えながら、二人のやり取りを見守った。
「………私はダミ………ダンとと申しますが、家名は訳あってお話出来ません。………しかし、私の名を訊ねる暇があれば、先程の無礼な態度をモルゲンシュテルン侯爵令嬢に謝罪すべきだと思いますが?」
ダンと名乗った冷たい視線を受けて、フローラの表情が不満げに歪んだ。
「どうして私がアンネリーゼ様に謝る必要があるんですかぁ?わたしたち、お友達同士でただ仲良く話をしていただけなのに………ねぇ、アンネリーゼ様っ?」
フローラは、ダンの背後にいるアンネリーゼに、見た目だけは完璧な笑顔を向けてきた。
1
お気に入りに追加
946
あなたにおすすめの小説
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
旦那様、仕事に集中してください!~如何なる時も表情を変えない侯爵様。独占欲が強いなんて聞いていません!~
あん蜜
恋愛
いつ如何なる時も表情を変えないことで有名なアーレイ・ハンドバード侯爵と結婚した私は、夫に純潔を捧げる準備を整え、その時を待っていた。
結婚式では表情に変化のなかった夫だが、妻と愛し合っている最中に、それも初夜に、表情を変えないなんてことあるはずがない。
何の心配もしていなかった。
今から旦那様は、私だけに艶めいた表情を見せてくださる……そう思っていたのに――。
孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?
季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
【R-18】記憶喪失な新妻は国王陛下の寵愛を乞う【挿絵付】
臣桜
恋愛
ウィドリントン王国の姫モニカは、隣国ヴィンセントの王子であり幼馴染みのクライヴに輿入れする途中、謎の刺客により襲われてしまった。一命は取り留めたものの、モニカはクライヴを愛した記憶のみ忘れてしまった。モニカと侍女はヴィンセントに無事受け入れられたが、クライヴの父の余命が心配なため急いで結婚式を挙げる事となる。記憶がないままモニカの新婚生活が始まり、彼女の不安を取り除こうとクライヴも優しく接する。だがある事がきっかけでモニカは頭痛を訴えるようになり、封じられていた記憶は襲撃者の正体を握っていた。
※全体的にふんわりしたお話です。
※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています。
※表紙はニジジャーニーで生成しました
※挿絵は自作ですが、後日削除します
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる