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41.助け

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「なぁ~んだ………記憶はなくても、イイ子っぷりは変わらないんですねぇ?ホント、つまんない人」

わざとらしい盛大な溜息をつくと、嘲りの笑みを浮かべた。

「…………」

アンネリーゼは黙ったまま、ぎゅっと手にした本を抱き締めた。
先日マルクスから向けられた怒りの感情とは異なる、敵意と憎悪にアンネリーゼは戸惑うしかなかった。

「でも、そうしていられるのも、今のうちだけかもしれませんよぉ?身の回りに不幸が起きた巫女姫なんて縁起が悪いって、みんな言ってます」

つやつやとした桜貝のような可愛らしい唇が、意地悪く歪む。

「アンネリーゼ様が巫女姫に選ばれたのだって、侯爵家の権力を使ったんじゃないんですかぁ?」

女神や聖殿への冒涜とも取れる発言に、アンネリーゼは目を見開いた、その時だった。

「それは聞き捨てならない言葉ですね」

二人の間に割って入るように、一人の男性が姿を現した。
濃い茶色の、長い髪を後ろで緩く束ね、上品なダークブラウンのジャケットを着こなした端麗な容姿の青年で、齢は見たところニ十代だろうか。

「巫女姫の選定には何人たりとも干渉ができないということは、この地に住まう者であれば誰でも知っている事でしょう」

青年の黒い瞳が令嬢を捉えると、令嬢は怯えたように息を呑んだ。

「わたしはっ、そういう噂があるからアンネリーゼ様に教えて差し上げようとしたんですぅ」

先程アンネリーゼへと向けていた激しい敵意などまるでなかったかのように、令嬢はふわりと天使のような微笑みを浮かべた。
そして、媚びるような上目遣いで青年を見る。

「あの、お会いするのは初めてだと思うんですけどぉ………どちらの家のご子息ですかぁ?あ、わたしはクラネルト男爵令嬢のフローラと言いますぅ」

アンネリーゼが訊ねても答えなかったのに、青年には訊かれてもいないのに名乗る令嬢の名と家名を、アンネリーゼは漸く知ることが出来た。
しかしそもそも自分で『男爵令嬢』と名乗るのはどうなのだろうと考えながら、二人のやり取りを見守った。

「………私はダミ………ダンとと申しますが、家名は訳あってお話出来ません。………しかし、私の名を訊ねる暇があれば、先程の無礼な態度をモルゲンシュテルン侯爵令嬢に謝罪すべきだと思いますが?」

ダンと名乗った冷たい視線を受けて、フローラの表情が不満げに歪んだ。

「どうして私がアンネリーゼ様に謝る必要があるんですかぁ?わたしたち、お友達同士でただ仲良く話をしていただけなのに………ねぇ、アンネリーゼ様っ?」

フローラは、ダンの背後にいるアンネリーゼに、見た目だけは完璧な笑顔を向けてきた。
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