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40.招かれざる者

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「あら、アンネリーゼ様ではありませんかぁ?」

静寂を破る、耳障りな声が静寂を切り裂いて響き渡った。
嫌な予感しかしなかったが、無視するわけにもいかず、アンネリーゼは足を止めて声の主へと視線を向けた。
そこには、小柄で可愛らしい、輝くような明るい金髪に若草色のぱっちりとした瞳の令嬢が立ってアンネリーゼを見ていた。

「………ごめんなさい。わたくし、事故で記憶を失くしておりますの。どちら様でしょうか?」

心底申し訳無さそうにアンネリーゼは目を伏せると、令嬢はぱちくりと瞬きをした。

「ええ~っ?わたしのことも、全部忘れちゃったんですかぁ?」

彼女の少し舌足らずで貴族令嬢としては些か品のない話し方が何となく不快だったが、表情に出さないように努めた。

「ええ。本当に申し訳ないのだけれど、何も覚えておりませんの」

彼女は、過去の自分と親しい間柄だったのだろうか。
とりあえず謝罪の言葉を口にしながら、アンネリーゼは相手の出方を伺った。

「ふ~ん………。じゃあ、ギュンター様の事も、殺された婚約者のルートヴィヒ様の事も、な~んにも覚えてないんですかぁ?」

名乗ることもせずに、何故か無邪気な笑顔を浮かべながら、令嬢は小さく首を傾げてみせた。

「ルートヴィヒ様の話は両親からも聞いておりますけれど………ギュンター様………とは、どなたです?」

アンネリーゼは訝しげに眉を顰めながら、令嬢を見据える。
何故か、その名前を口にした途端に言いしれない怖気を感じた気がした。

「え?あっ………。わたしったら………!知らないなら別にいいんですぅ」

にこりと微笑んだ彼女の若草色の瞳が、アンネリーゼには濁って見えた。
いや、瞳だけではない。彼女を包む空気全体が淀んでいるような気配だった。

「………それにしても、女神に選ばれた巫女姫なのに、何だかアンネリーゼ様は不幸続きですよねぇ?」

令嬢の笑顔が、無邪気なそれではなくどす黒い何かを含んだものに変わったことに、アンネリーゼは気がついた。

「もしかして、本当は巫女姫じゃないんじゃないですかぁ?」

令嬢は覗き込むような格好で、アンネリーゼの深い青の瞳を見つめてくる。
令嬢の表情には、完全な悪意が含まれていた。

「………それは、女神様のお決めになった事ですから、わたくしごときが何かを、言える立場にはありません」

わざわざ話しかけてきて、喧嘩を売っているのかと思うような言動を取る令嬢の、真意が分からない。
慎重に言葉を選びながら、繋いでいくと令嬢は面白くなさそうな顔をした。
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