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33.不穏な動き(SIDE:ジークヴァルト)

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クルクルと喉の奥をふるわせて、ダミアンは啼いた。

「………宜しかったのですか?」
「宜しいも何も、俺と会った事なんて覚えている必要はないだろう。彼女には、彼女の道が用意されている筈だ。………それに彼女は大切な『巫女姫』なんだろう?だったら尚更俺みたいなとの関わりなんて記憶に無いほうがいい」

表情は変わらないまま、けれども自らを蔑むような声色だった。

「………もっとご自分の心に素直に生きれば楽でしょうに………。本当にヒトとは面倒な生き物だ」
「煩い。そもそも俺はヒトじゃないだろう。ヒトの形をしているだけで、中身は魔物とそう変わらないさ。………そもそも俺が生き物なのかどうかも分からないけどな」

ジークヴァルトは吐き捨てるようにそう言うと、ソファに座り、乱暴に長い脚を投げ出した。

「………では、すっかりひねくれてしまった可哀想な主に、一ついい事をお教え致しましょうか。モルゲンシュテルン侯爵令嬢とノイマン伯爵を婚約破棄に追い込んだクラネルト男爵令嬢が、モルゲンシュテルン侯爵令嬢の事を嗅ぎ回っています。この女、中々の曲者ですよ」
「…………何だと?」

途端にジークヴァルトの顔色が変わった。

「クラネルト男爵令嬢は、自分こそが正当な巫女姫だと主張しています。しかも悪い事に、どこからかモルゲンシュテルン侯爵令嬢が記憶を失くしている事を知ったらしいですね」

指示を与えたわけではないのに、よくそこまで調べ上げたものだとジークヴァルトは感心した。
余計な真似をした事に対しては怒りこそあれど、アンネリーゼを脅かす不穏な動きを事前に知ることが出来たことに、安堵を覚えた。

「正当な巫女姫………か。お前はその女を見てきたか?」
「ええ、勿論。………魔力は中の上程度、闇と炎の適性はあれど、他はまるでですね。ついでに言えば、見た目はまあそれなりですが、その他は取るに足らない存在です。自尊心と虚栄心だけは人並み以上、といったところでしょうか」

冷静なダミアンの分析で、クラネルト男爵令嬢とやらがどんな人物なのか大方予想がついた。
そしておそらく実物は期待を裏切らないような人物なのだろう。
最早、嫌な予感しかしなかった。

「………モルゲンシュテルン侯爵は、それを知っているのか?」
「いえ。まだ水面下での動きですので………」

ダミアンはジークヴァルトの顔を覗き込むように首を傾げた。

「………ダミアン。その件について、出来るだけ詳しく、早急に調べろ。出来ればモルゲンシュテルン侯爵を動かせるだけの証拠も抑えるんだ」
「御意」

ダミアンの嘴が、嬉しそうに開いたように見えた。
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