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27.大鷹

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アンネリーゼかモルゲンシュテルン侯爵邸で目を覚ましてから、一週間が経過したが、彼女の記憶が戻る気配は一向になかった。

「今日は、何をされますか?刺繍?それとも読書でもなさいますか?」
「そうね。………でも、部屋にばかり籠もっているとそれはそれで病気になりそうだわ」

以前の自分が活発だったのかどうかは分からないが、それでもずっと室内で過ごしていると、気が滅入ってしまいそうだった。

「………本当ならば、どこかへ息抜きがてらお出掛けになられればよいのですが………お嬢様をなるべく屋敷の外にだすなと、旦那さまからきつく言われておりますので………」

ミアが申し訳無さそうにそう告げると、アンネリーゼは微笑んだ。

「お父様やミアを責めるつもりはないわ。わたくしの身を案じて下さっているのだもの」

社交界では、アンネリーゼは病に臥せっているということになっているらしい。
時々友人を名乗る他家の令嬢からお見舞いの品が届いたりするが、当然ながら誰一人として顔を思い浮かべることは出来なかった。

いつまでも記憶が戻らなければ、どこかで記憶喪失だという事実を公表せざるをえないだろうということはアンネリーゼにも分かっていた。

焦っても記憶が戻るわけではないのだが、それでも気は急く。アンネリーゼはもどかしい気持ちでいっぱいだった。

「世の中って、なかなかうまく行かないものね」

アンネリーゼは小さく溜息をつくと、ふと窓の外に目をやった。
ここのところ、窓の外に植えてあるニワトコの木の枝に、一羽の美しい羽を持つ大鷹が姿を現すようになっていた。

「こんにちは。今日もいいお天気ですね」

ゆっくりと窓の方へと歩み寄ると、アンネリーゼは窓を開け放った。
大鷹は、鳴き声を出すわけでもなく、大人しくアンネリーゼを見つめていた。

「今日は、羽休めですか?」

アンネリーゼが話しかけると大鷹は首を傾げたように見えた。

「………お嬢様………」

庭の大鷹に話しかけるアンネリーゼを、ミアが心配そうに眺めている。

「大丈夫よ。少し珍しい鷹だけれど、危険はないもの。とてもおとなしくて、いい子なのよ」

アンネリーゼには、その大鷹がアンネリーゼを見守ってくれているような気がしてならなかった。

「………どうか、わたくしの記憶が一日でもはやく戻るように願っていて頂戴ね」

そっと囁くように大鷹に告げると、大鷹はアンネリーゼの言葉に答えるかのようにバサリと翼を広げて、羽ばたいてみせたのだった。
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