呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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21.忘却魔法

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ジークヴァルトはアンネリーゼの肩を抱きしめたまま、何かを話すわけでもなく、ただじっとアンネリーゼが泣き止むのを待っているようにすら見えた。

ジークヴァルトの体温が、頬からもじわじわと伝わってくる。
彼自身、どういうつもりがあってそうするのかは分からないが、抱きしめられた事がアンネリーゼは堪らなく嬉しく感じるのと同時に、もうこれ以上、このように触れ合う事がなくなるのだと思うと、また新たな涙が湧き上がるのを、アンネリーゼは感じた。

ずっと、触れていたいのに、もうそれが叶わなくなると想像しただけで、どうしてこんなにも寂しさと虚無感が押し寄せてきた。

「いや、です………」

微かな、微かな囁きは、嗚咽に紛れて誰の耳にも届かぬままに、消えていく。
儚い、花びらのようにその言葉はジークヴァルトに届くことはなく、消えてしまったのだった。

「………とにかく、ゆっくりと呼吸をして、落ち着きましょう。記憶のないあなたへの配慮が、少し足りませんでした。………本当に、申し訳ない」

ジークヴァルトのせいで涙が流れたことは間違いないのに、彼を責めるのは違っている気がして、アンネリーゼは涙を流しながら、静かに首を振った。

「………あなたと出会えたのは、本当に偶然でした。でも、あなたと過ごす時間は………あなたを想う時間は、とても温かくて優しい………、俺を『ヒト』に引き戻してくれるような、かけがえのない時間でした」
「クラル、ヴァイン辺境伯、様………?」

ジークヴァルトが突然口にした、言葉の意味が理解出来ず、アンネリーゼは涙に濡れた双眸で彼を見つめる。

「………しかし、あなたと俺とでは、所詮生きていく世界が違うのです、アンネリーゼ嬢………」

苦しそうに、ジークヴァルトが呟いた時、俄にアンネリーゼの体が光に包まれ始めたような気がした。

「………クラルヴァイン辺境伯領ここで過ごした間の出来事は、全てあなたが見ていた夢です。貴方は、長い夢を見ていただけ………。俺に会ったことなどないし、ここで保護されていた間は一度も目を覚まさなかった………」

暗示のような、ジークヴァルトの言葉が、ゆっくりとアンネリーゼの脳内に入り込むと、段々と意識が混濁してきたような気がした。

「………クラ……ヴァイン………、さま………?」

どうしてか強い眠気に襲われて、段々と遠ざかっていく意識の中で、ジークヴァルトがアンネリーゼに向かって微笑んでいたのを見た気がした。
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