上 下
16 / 230

16.アンネリーゼの正体(SIDE:ジークヴァルト)

しおりを挟む
ウルリヒが訪ねてきてから三日後、ふと窓の外に気配を感じて視線を移すと、そこにはダミアンの姿があった。

「随分と遅かったじゃないか。………で、首尾はどうだ?」

窓を開けてやると、大鷹が羽を震わせて部屋に入ってきた。

「お探しの令嬢ですが、主の情報と一致する特徴を持つのは、モルゲンシュテルン侯爵令嬢………アンネリーゼ・モルゲンシュテルンでした」
「………モルゲンシュテルン侯爵令嬢?フォイルゲンでも、クルツでもなく、我が国の貴族?それも、モルゲンシュテルン侯爵家?………それは確かなのか?」

身分については予想通りだったが、国内の貴族だったということ、そして貴族でありながら他の貴族に疎いジークヴァルトですらも知っているような由緒ある家柄の令嬢だった事にジークヴァルトは驚いた。

「主の指示ではフォイルゲンとクルツの貴族ということでしたが、プラチナブロンドに青の瞳という令嬢は見つからなかった為、私の独断で国内も当たってみたのですが………勝手な真似をして、申し訳ございません」

ダミアンが僅かに首を下げて謝罪する。

「いや、………よくやってくれたな。………彼女の持つ色彩は、そんなに珍しいのか………」

一度見たら忘れられない、美しいアンネリーゼの髪と瞳を思い浮かべるだけで、心の奥底に閉じ込めた感情が、ざわつく。
ジークヴァルトはそれを押し止めるように拳を握った。

「………彼女は今、行方不明なんだな?」
「はい。婚約者と共に出掛けた帰りに、行方不明になったとのことです。婚約者の方は、亡骸が見つかったらしく、賊に襲われたとの憶測が広がっておりました」

婚約者、という言葉にジークヴァルトの胸はチクリとした痛みを訴えたが、彼はそれに気が付かないふりをした。

「婚約者を、目の前で殺されるのはどんな気持ちだろう………」
「は?」

ポツリと呟いたジークヴァルトに、ダミアンは不思議そうに首を傾げてみせた。

「いや、何でもない。ついでに、ノイマン伯爵について調べてくれ」
「ノイマン………ギュンター・ノイマン伯爵ですか?」
「俺が知っていると思うか?だったらお前に偵察なんて頼まない」

ぎろりと金色の双眸が、ダミアンの丸くて鋭い目を射抜く。

「そうですね。しかし、何があったのです?………主が積極的にヒトと関わろうとするとは……」

ばさり、と大きな翼を広げたダミアンは、湾曲した嘴で丁寧に毛づくろいをしながらジークヴァルトに尋ねる。

「………ただの、気まぐれだ」

小さな溜息を一つつくと、ジークヴァルトはダミアンを自らの腕にとまらせる。
猛禽類特有の鋭い鉤爪が、ジークヴァルトの皮膚に食い込み、血が流れた。

「………主らしくない………」

ダミアンは少し呆れたように瞬きすると、首を下げてジークヴァルトの腕を伝う血を啜り始めた。

ダミアンは、ジークヴァルトと『血の契約』を結んだ魔鳥。
ジークヴァルトが自らの血と魔力を『餌』として与える代わりに、彼に隷属している。
普段は大鷹の姿を取っているが、他の猛禽類にや、時には人の姿をとることもできる強力な力を持つ魔鳥だった。

「そのノイマンとはどんな奴だ?」
「………いい噂は聞きません」

あのような男を使者に立てるくらいだからそうだろうと、ジークヴァルトは思った。

「ノイマンの身辺を探れ。モルゲンシュテルン侯爵令嬢との繋がりについてもだ。………なるべく急げよ?」
「………わかりました。………しかし、本当に主らしくないですね」

ダミアンの言葉に、ジークヴァルトは自嘲気味な笑みを浮かべた。

「………俺らしくない、か。確かにそうだな」

これは、ただの気まぐれだ。
ジークヴァルトは心の中でそう自分に言い聞かせるように呟いた。
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。 他サイトでも掲載中の作品です。 一応、短編予定ですが長引きそうであれば長編に変更致します。 応援よろしくお願いします(^^)

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...