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14.笑顔

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アンネリーゼは深い蒼の瞳を、ジークヴァルトへと向けた。

「あの者に聞けば、わたくしがどこの誰なのかは知ることは出来たと思います。………正直に申しますと、辺境伯様がああ言って下さらなかったら、わたくしはあの者の前に、姿を見せようと考えていました」
「やはり…………」

ジークヴァルトが小さく呟いたのを、アンネリーゼは聞き逃さなかった。

「やはり、ということは………辺境伯様はここにわたくしがいることを、初めからご存知だったのですわね?」
己をじっと見つめる、凪のような金色の瞳に、アンネリーゼは視線を絡めた。

「分かった上で、わたくしを止めようとして下さったのでは、ありませんか?」

アンネリーゼの問いに、ジークヴァルトは一瞬、驚いたように目を見開く。

「………いつから、気がついていたのですか?」
「それは、つい先程です。わたくしの居場所へと、真っ直ぐにお越しになったので、そんな気が致しましたの」

はにかむように、アンネリーゼが微笑むと、ジークヴァルトはアンネリーゼの表情を見て、ふっと頬を緩めた。
常に感情を押し殺しているような、表情の乏しいジークヴァルトがはっきりと分かるほどに、笑ったのだ。
アンネリーゼは、一瞬見間違いではないのかと思い、ジークヴァルトの顔を凝視した。

「全く………不思議な人だ」

そう呟く頃には、表情はすっかり元通りになっていた。

「あなたの言うとおりです。確かに、あの者はあなたの身元は判明したでしょう。だが、あの者の言動から考えて、関わりこそあっても、親族ではないでしょう。………親族でもないのに、あれだけ必死にあなたを探しているとなると、ノイマン伯爵には、あなたを探さなければならない理由があるのでしょう。………そのような者に、あなたを引き渡すことは出来ません。あなたを保護した以上は無事にあるべき場所へと返す義務があると思っていますからね」

表情と共に、他人行儀な口調へと戻ってしまったことに、一抹の寂しさを感じながらアンネリーゼはジークヴァルトを見つめる。

「お気遣いいただき、ありがとうございます。辺境伯様のお陰で、迂闊な行動を取らずに済みましたわ」

考えてみれば、ジークヴァルトの指摘のとおりだ。
家族ならば、堂々と関係を明かして協力を求めるだろう。婚約者であっても、同じことだ。
………行方不明になっていることを隠さなければならないような事情があったのならばまた話は別だろうが、その場合は探しになど来ないだろう。
そうなると、ノイマン伯爵はそのどちらでもなく、尚且その両者よりも先にアンネリーゼを見つけ出さなければならない理由がある筈だ。
その理由も、目的も分からない相手にのこのこと付いていこうと考えた自分の愚かさを、アンネリーゼは悔やむ。
もし、そのままウルリヒの前に姿を現していたら、自分はどうなっていたのだろう。
そう考えて、アンネリーゼは恐ろしさに、小さく身震いをした。
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