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12.使者の目的

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「偉そうにしているけれど、あの人は『伯爵の使者』なのでしょう?それならば、辺境伯であるクラルヴァイン家の方が格上だわ。それなのに、いくら使用人相手とはいえ、あの無礼な態度を取るなんて………」

アンネリーゼは唇を噛む。
ノイマン伯爵が何者なのかは分からないが、あのような者を使者として遣わすということは、その程度の人物なのだろう。

「………何の騒ぎだ?」

突然、冷たい声が響き渡った。
アンネリーゼははっと目を見開く。それは、ジークヴァルトのものに違いなかった。

「旦那様」
「貴殿がクラルヴァイン辺境伯殿ですかな?私はノイマン伯爵の使いの者で、ウルリヒと申す。早速だが………」

言葉遣いはやや丁寧になったものの、尊大な態度を変えることなく、ウルリヒと名乗った男は、ジークヴァルトが口を開く許可を与えてもいないのに、勝手に喋りだした。

「私はノイマン伯爵とやらと、面識はない。知り合いでもないのに、先触れもなく訪問をするとは、無礼だと思わなかったのか?」
「こちらがわざわざこんな田舎の領地まで出向いてやったというのに無礼だと?」

ウルリヒの声に、怒気が含まれる。

「来てくれと頼んだわけではない。貴様が勝手に押しかけて来ただけだろう」

ジークヴァルトも、怒っているのだろうか。
声音からは判断が出来ないが、突き放すような乱暴な口調でジークヴァルトがそう告げると、ウルリヒは悔しそうに押し黙った後、がなる。

「………っ、とにかく!貴殿には『アンネリーゼという名の令嬢』を見つけてもらいたい」

木の陰で、それを聞いたアンネリーゼは、先程までとは打って変わって、呆然とした表情を浮かべた。

「………いくら民が少ないとはいえ、私も住民一人一人を全員把握しているわけではない。それに、協力する理由もない。………これ以上話しても無駄でしょうから、お引取り下さい」
「辺境伯領を流れる川に落ちたということまではわかっている。プラチナブロンドの髪に、深い蒼の瞳の令嬢だ」

ウルリヒはアンネリーゼの外的特徴を、はっきりと口にする。
ウルリヒが、そしてノイマン伯爵が探している令嬢とは、アンネリーゼだ。

何故探しているのかは分からなかったが、自分の過去に関わりのあった人間に違いないだろう。
アンネリーゼは使者の方へと向かおうとしたが、思わぬ言葉に、足を止めた。

「そのような娘は知らない。それに、あの川に倒れていたというのならば、人に見つかるより先に、魔獣に屠られるだろう」

残酷なほど冷たい声で、ジークヴァルトはそう告げたのだった。
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