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5.謎の令嬢(SIDE:ジークヴァルト)
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その頃、ジークヴァルトは執務室にいた。
小さく溜息をつくと、長めの前髪を掻き上げる。
アンネリーゼについての手掛かりは、皆無だった。
彼女が身につけていた物から魔法の痕跡を探そうにも、ジークヴァルト自身が彼女を助ける際に回復魔法と風魔法を使ったせいで、全て上書きされてしまっていた。
迂闊な自身の行動を悔やんだが、今更どうしようもなかった。
手掛かりがないとなると、地道に情報収集をしなければならないが、ここ何十年も社交界には顔を出していないジークヴァルトは、国内の貴族の顔すらも覚えていなかった。
しかも、問題はそれだけにはとどまらない。
ヴァルツァー王国の北西部に位置するクラルヴァイン辺境伯領は、フォイルゲン王国とクルツ公国の二国と接している。そして、アンネリーゼが倒れていたあの川は、その両国の国境を流れてくる。
溺れた様子はなかったし、目立った外傷もなかったところを見ると、直前に何かしらの事件もしくは事故に巻き込まれ、意識を失ったまま川に転落したと考えるのが妥当だろう。
記憶喪失になった経緯は定かではないが、おそらくその直前に起きた出来事が原因だろう。
アンネリーゼを早く然るべき場所に移してやり、魔族や魔獣の討伐に明け暮れる日常に戻りたいと、ジークヴァルトは思った。
「………やはり、人と関わると碌なことにならない」
まるで彼自身が人間ではないかのような言葉を、その芸術的な唇から零すと、もう一度溜息をついてから、ジークヴァルトは窓の外へと視線を走らせた。
大きなモミの木の枝に止まった、一羽の大鷹がジークヴァルトをじっと見つめていた。
普通の鷹よりも二周りほど体が大きく、黒味の強い、けれども恐ろしいほどに美しい羽を持つ賢そうな鷹だった。
「………ダミアン」
ジークヴァルトは窓を開けると、大鷹に向かって声を掛ける。
「フォイルゲン・クルツの両国内で、行方不明になっている貴族令嬢がいないか調べろ。シルバーブロンドに、深い蒼色の瞳を持つ令嬢だ」
「主のご命令とあれば」
僅かに首を傾げたダミアンと呼ばれた鷹は滑らかに人語を操ると、大きな翼を広げて羽ばたくと、あっという間に薄い雲の広がる空へと舞い上がっていった。
その姿を見送ると、ジークヴァルトは三度目の溜息をつき、窓を閉める。
「…………何だ?」
その時妙な気配を感じ、ジークヴァルトは眉を顰めた。
それはアンネリーゼの居室の方から感じられた。
彼女が目を覚ました時とは少し違う、まるで彼女の魔力を別の何かが取り込もうとしているかのような、嫌な気配だった。
「………呪詛………?いや、まさか………な」
ジークヴァルトは何故か自嘲気味な笑みを浮かべると、ゆっくりと自身の心臓が収まる場所に手を持っていくと、ぐっと胸元を掴んだ。
その場所に刻まれた、今は纏った衣服に覆われていて見えない、忌まわしい呪いの刻印が疼いた気がした。
小さく溜息をつくと、長めの前髪を掻き上げる。
アンネリーゼについての手掛かりは、皆無だった。
彼女が身につけていた物から魔法の痕跡を探そうにも、ジークヴァルト自身が彼女を助ける際に回復魔法と風魔法を使ったせいで、全て上書きされてしまっていた。
迂闊な自身の行動を悔やんだが、今更どうしようもなかった。
手掛かりがないとなると、地道に情報収集をしなければならないが、ここ何十年も社交界には顔を出していないジークヴァルトは、国内の貴族の顔すらも覚えていなかった。
しかも、問題はそれだけにはとどまらない。
ヴァルツァー王国の北西部に位置するクラルヴァイン辺境伯領は、フォイルゲン王国とクルツ公国の二国と接している。そして、アンネリーゼが倒れていたあの川は、その両国の国境を流れてくる。
溺れた様子はなかったし、目立った外傷もなかったところを見ると、直前に何かしらの事件もしくは事故に巻き込まれ、意識を失ったまま川に転落したと考えるのが妥当だろう。
記憶喪失になった経緯は定かではないが、おそらくその直前に起きた出来事が原因だろう。
アンネリーゼを早く然るべき場所に移してやり、魔族や魔獣の討伐に明け暮れる日常に戻りたいと、ジークヴァルトは思った。
「………やはり、人と関わると碌なことにならない」
まるで彼自身が人間ではないかのような言葉を、その芸術的な唇から零すと、もう一度溜息をついてから、ジークヴァルトは窓の外へと視線を走らせた。
大きなモミの木の枝に止まった、一羽の大鷹がジークヴァルトをじっと見つめていた。
普通の鷹よりも二周りほど体が大きく、黒味の強い、けれども恐ろしいほどに美しい羽を持つ賢そうな鷹だった。
「………ダミアン」
ジークヴァルトは窓を開けると、大鷹に向かって声を掛ける。
「フォイルゲン・クルツの両国内で、行方不明になっている貴族令嬢がいないか調べろ。シルバーブロンドに、深い蒼色の瞳を持つ令嬢だ」
「主のご命令とあれば」
僅かに首を傾げたダミアンと呼ばれた鷹は滑らかに人語を操ると、大きな翼を広げて羽ばたくと、あっという間に薄い雲の広がる空へと舞い上がっていった。
その姿を見送ると、ジークヴァルトは三度目の溜息をつき、窓を閉める。
「…………何だ?」
その時妙な気配を感じ、ジークヴァルトは眉を顰めた。
それはアンネリーゼの居室の方から感じられた。
彼女が目を覚ました時とは少し違う、まるで彼女の魔力を別の何かが取り込もうとしているかのような、嫌な気配だった。
「………呪詛………?いや、まさか………な」
ジークヴァルトは何故か自嘲気味な笑みを浮かべると、ゆっくりと自身の心臓が収まる場所に手を持っていくと、ぐっと胸元を掴んだ。
その場所に刻まれた、今は纏った衣服に覆われていて見えない、忌まわしい呪いの刻印が疼いた気がした。
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