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2.拾われた令嬢
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川の畔で倒れていた彼女を、ジークヴァルトが見つけたのは、本当に偶然だった。
魔獣討伐で、標的だった魔犬の群れを追い詰めた結果、久しぶりに足を踏み入れた森の奥。
そんな場所を流れる川の畔に、年若い娘が、それも体の半分が水に浸かった状態で倒れているのだから、普段あまり感情の起伏のないジークヴァルトも、流石に驚きを隠せなかった。
「おい、しっかりしろ」
ジークヴァルトは己の服が濡れるのも構わずに川に入ると、娘を抱き上げて声を掛けるが、当然反応はなかった。
娘の華奢な体は氷のように冷たく、顔色はまるで死人のようだ。
もう手遅れだったかと思った矢先に、娘の口から僅かに空気が漏れるのを感じ取り、ジークヴァルトは迷わず娘に回復魔法を施した。
「ん…………」
ジークヴァルトの注ぎ込んだ魔力に反応したのか、娘は僅かに身動ぎをした。
ほんの少し安堵したジークヴァルトは溜息をつき、己の腕の中に収まっている娘の様子を、じっと見つめる。
美しい、娘だった。
よく手入れされた、流れるようなプラチナブロンドの髪は緩やかに波打ち、髪と同じ色の長い睫毛が目元を綺麗に縁取っている。
すっと通った鼻筋に、今は色を失ってしまっている形の良い唇。そして、しみ一つないきめ細やかで柔らかそうな、透き通るような白い肌。
彼女の瞳は一体、どんな色をしているのだろう。
数百年ぶりにに、好奇心が湧き上がるのをジークヴァルトは感じたが、すぐに元通りに冷たい心が戻ってきた。
よく見ると、彼女が身に付けている青色のドレスはかなり上質なもので、彼女がそれなりの家柄の令嬢であることを示していた。
しかし、そんな娘が何故このような辺境の川の畔に倒れているのか。
ジークヴァルトは辺りを見回すが、従者も、馬車も見当たらない。
この辺りをよく知るジークヴァルト自身ですらも普段はあまり足を踏み入れない場所なのだから、当然と言えば当然だった。
この状況を見る限り、彼女は何か事件か事故に巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。
「面倒なものを拾ったな………」
ジークヴァルトは呟きながら顔を顰めた。
だが、いつ魔獣が出てくるかも分からないようなこの場所に、このまま彼女をここに置いていくわけにもいかず、ジークヴァルトは彼女と自分の衣服を魔法で乾かすと、彼女を片腕に抱いたまま愛馬のエイデルに飛び乗り、居城へと向かった。
「旦那様………ええと、そのご令嬢は………?」
城に戻ると、出迎えた従者のエルンストが戸惑いながら訊ねてきた。
魔獣討伐の命を受け、その身一つで向かったはずのジークヴァルトが、意識のない娘を連れて戻ったのだから、エルンストの反応はごく普通だ。
「森の中で拾った。素性は分からないが、とりあえず適当な部屋で、介抱してやってくれ」
エルンストに娘を預けると、ジークヴァルトは振り返ることもなくその場を立ち去ろうとする。
「ひ………拾った………?」
「俺は執務室にいる。その娘が目を覚ましたら、知らせろ。話を聞きたい」
「か、畏まりました」
思い出したようにそれだけ伝えると、何事もなかったかのように歩き出すジークヴァルトを、エルンストは呆然としながら見送ったのだった。
魔獣討伐で、標的だった魔犬の群れを追い詰めた結果、久しぶりに足を踏み入れた森の奥。
そんな場所を流れる川の畔に、年若い娘が、それも体の半分が水に浸かった状態で倒れているのだから、普段あまり感情の起伏のないジークヴァルトも、流石に驚きを隠せなかった。
「おい、しっかりしろ」
ジークヴァルトは己の服が濡れるのも構わずに川に入ると、娘を抱き上げて声を掛けるが、当然反応はなかった。
娘の華奢な体は氷のように冷たく、顔色はまるで死人のようだ。
もう手遅れだったかと思った矢先に、娘の口から僅かに空気が漏れるのを感じ取り、ジークヴァルトは迷わず娘に回復魔法を施した。
「ん…………」
ジークヴァルトの注ぎ込んだ魔力に反応したのか、娘は僅かに身動ぎをした。
ほんの少し安堵したジークヴァルトは溜息をつき、己の腕の中に収まっている娘の様子を、じっと見つめる。
美しい、娘だった。
よく手入れされた、流れるようなプラチナブロンドの髪は緩やかに波打ち、髪と同じ色の長い睫毛が目元を綺麗に縁取っている。
すっと通った鼻筋に、今は色を失ってしまっている形の良い唇。そして、しみ一つないきめ細やかで柔らかそうな、透き通るような白い肌。
彼女の瞳は一体、どんな色をしているのだろう。
数百年ぶりにに、好奇心が湧き上がるのをジークヴァルトは感じたが、すぐに元通りに冷たい心が戻ってきた。
よく見ると、彼女が身に付けている青色のドレスはかなり上質なもので、彼女がそれなりの家柄の令嬢であることを示していた。
しかし、そんな娘が何故このような辺境の川の畔に倒れているのか。
ジークヴァルトは辺りを見回すが、従者も、馬車も見当たらない。
この辺りをよく知るジークヴァルト自身ですらも普段はあまり足を踏み入れない場所なのだから、当然と言えば当然だった。
この状況を見る限り、彼女は何か事件か事故に巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。
「面倒なものを拾ったな………」
ジークヴァルトは呟きながら顔を顰めた。
だが、いつ魔獣が出てくるかも分からないようなこの場所に、このまま彼女をここに置いていくわけにもいかず、ジークヴァルトは彼女と自分の衣服を魔法で乾かすと、彼女を片腕に抱いたまま愛馬のエイデルに飛び乗り、居城へと向かった。
「旦那様………ええと、そのご令嬢は………?」
城に戻ると、出迎えた従者のエルンストが戸惑いながら訊ねてきた。
魔獣討伐の命を受け、その身一つで向かったはずのジークヴァルトが、意識のない娘を連れて戻ったのだから、エルンストの反応はごく普通だ。
「森の中で拾った。素性は分からないが、とりあえず適当な部屋で、介抱してやってくれ」
エルンストに娘を預けると、ジークヴァルトは振り返ることもなくその場を立ち去ろうとする。
「ひ………拾った………?」
「俺は執務室にいる。その娘が目を覚ましたら、知らせろ。話を聞きたい」
「か、畏まりました」
思い出したようにそれだけ伝えると、何事もなかったかのように歩き出すジークヴァルトを、エルンストは呆然としながら見送ったのだった。
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