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141.激突

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「……待ってくれ。力を貸してくれるのはありがたいが、ラーシュは、私の手で……」

アデルバート様が、絞り出すような声で、懇願した。

『お主の気持ちは、分かっている。ほんの少し、手助けをしてやるだけだから、案ずることはない』

炎の竜が、静かに告げた。
ピリッとした空気が、辺りを包み込み、降り積もった雪が、強い風に煽られて地吹雪を起こす。
アデルバート様は手にした剣を握り直すと、真っ直ぐにラーシュへと向けた。

「もう二度と、シャトレーヌに触れさせはせん」
「本当に、その女のことしか頭にないようだな。最恐将軍の名が、聞いて呆れるぜ」
「……なんとでも言うがいい」

アデルバート様は、ラーシュが挑発しても、全く気に留めてしない。
それが、ラーシュは面白くないようだ。チッと音が聞こえるくらいの舌打ちをすると、ラーシュも剣を構える。

「……そろそろ、決着をつけようじゃないか」
「望むところだ」

ざ、と雪を踏みしめる音が響いたかと思うと、両者が同時に剣を振るった。
金属の擦れ合う音が辺りに響き渡る。
ラーシュの剣には氷魔法が巻き付き、一方のアデルバート様の剣には火炎魔法が纏わっている。
それが擦れ合う度に水蒸気が立ち上り、磨かれた剣にはそれぞれの顔が写り込んで見える。

「くっ……。やはり、化け物は化け物か……」
「どうやら、竜は化け物ではなく、火炎神だったようだぞ」

先程は攻撃を受け止めるばかりだったアデルバート様が、一気に攻撃に転じていた。素早い動きもさることながら、身のこなしや太刀筋の全てに無駄がなくて、洗練されている。
キレイだ、と評するのは間違っているのかもしれないけれど、それくらい美しかった。

「……火炎神、だと?」

アデルバート様の言葉に驚いたのはラーシュだった。どうやら、炎との竜の言葉は、ラーシュには届いていないようだった。
やっぱり、魔法属性なんかで出てくる影響も違うのかしら?

「神の威を借りて戦わなければ、俺には勝てないのか?」
「……言ってくれるな。だが、神には手を出すなと言ってある。これは、正真正銘私の実力だ。……先程は油断したが、シャトレーヌを傷つけた罪、それに我が領民の命を奪った事、償ってもらうぞ」

アデルバート様の、剣を握る手に更に力が込められた。
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