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128.決裂

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「………はっ」

ラーシュの口から漏れたのは、嘲笑だった。
それは、アルヴァの交渉が決裂したことを意味していた。

「お前はもう少し利口だと思っていたが、どうやら買い被りだったようだな………残念だよ、アルヴァ」

ラーシュは、わざとらしく肩を竦めてみせた。
その言葉を向けられたアルヴァは、少しずつラーシュから距離を取るように後ずさっていく。

「シャトレーヌ様、早く黒焔公爵の元へ」

小声で、アルヴァがそう私に囁いたのが聞こえた。
私ははっとする。
今、ラーシュの注意は私ではなく、アルヴァに向いている。
それに、先程アルヴァに突き飛ばされたお陰で私はラーシュから開放されていた。
………もしかしたら、アルヴァは私を助けるために………?

「残念?その言葉をそっくりそのまま貴方にお返しします。貴方がもっと優れた方だったら、私は貴方の為に力を尽くしたでしょう。………だが、貴方はその強大な力をスネーストルムの………スノーデンのためではなく、ご自分の私怨の為にしか使わない」

アルヴァの顔に悲哀の表情が浮かぶ。

「貴方が、先代を………ご自身の父上をその手で葬ったのも、同じ理由でしょう?」
「黙れ!」

ラーシュの、叫び声にも似た怒声が響く。
私はそんなラーシュの様子を見ながら、少しずつ、アデルバート様の方へと移動していく。
アデルバート様は、氷狼にとどめを刺したところだった。
私は、全力でアデルバート様に向かって走り出した。
手を縛られたままなので、いつもどおりには走れないが仕方ない。
とにかく、アルヴァがラーシュの気を引き付けている間に、アデルバート様の元へ………。

「シャトレーヌ!」

駆ける私に気がついたアデルバート様の腕が、私を受け止めた。
力強い、逞しい腕の中で私は安堵の涙を流した。
半日も離れていなかった筈なのに、こんなにも懐かしい。

「アデルバート様………」
「よくぞ、無事に戻ったな」

アデルバート様の端正な顔が、くしゃっと歪んだ。嬉しそうでいて、涙を堪えるようなそんな表情だった。
手が自由にならない私は、アデルバート様を抱きしめる代わりに、漆黒の甲冑に頬ずりをした。
そんな私の様子に気がついたアデルバート様が手首の縄を切ってくださる。

「酷い目に、合わせてしまったな………」
「いえ、結果的には頬を怪我しただけですわ。アルヴァが、助けてくれましたし」

そうだ、アルヴァは?
私ははっとしてラーシュとアルヴァの方へと視線を移した。
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