上 下
122 / 166

122.炎と氷

しおりを挟む
外へと出ると、ラーシュの冷たい瞳が私を射抜いた。

「………奴は何故、この場所が分かった?お前が知らせたのか?」

ラーシュから、感じるのはアデルバート様に初めてお会いしたときに感じたような威圧感。半分だけとはいえ、やはり血の繋がった兄弟だと納得がいく。

「………そのような事が出来ていれば、さっさと逃げ出しますわ」

私は、気圧されないように気持ちを奮い立たせて答える。

「………ふん。まぁいい。お前がアデルバートの弱点だという事に変わりはない。お前が我が手中にある限り、あいつは手出しができない」

ラーシュは酷薄な笑みを浮かべると私に歩み寄ってくる。
私は反射的に身を引いた。

「愛しい夫に逢わせてやろうっていうのに、逃げるなよ」

………怖い。この人が何を考えているのかが分からなくて、怖い。
震える私の手を無理矢理掴むと自分の方に力ずくで引き寄せる。
そして抵抗出来ないように後手で手首を縛られた。

「………アルヴァ、そいつを連れてこい」
「はい」

アルヴァに伴われた私は集落の入口の方へと歩いていくラーシュに付いていく。
また、吹雪がいつの間にか酷くなってきていた。
まるでラーシュの怒りを汲んだ空が猛っているように。

「………大丈夫ですか?」

縛られているせいで、雪の中をうまく進めない私を、アルヴァが支えてくれた。

「ええ、ありがとう」

アルヴァに礼を言うと、私の前を行くラーシュが立ち止まった。
そこは少し開けた場所になっていて、木々が立ち並ぶ方には漆黒の影が確かに見えた。

「アデルバート様っ!!」
「シャトレーヌ!!」

私達は、同時に叫んだ。
間違いない。アデルバート様だわ。
私は、アデルバート様に駆け寄ろうとした。

「………おっと、悪いがあいつの元には行かせられないな」

ラーシュの腕が、私を捕らえた。

「ラーシュ!!シャトレーヌを離せ!!」
「何故お前に従わなければならない?お前は簒奪者の末裔に過ぎない。お前の治める領地を全て私に返すのならば、この女を返してやろう。………尤も、奪い返したとしても十月後にこの女が産み落とす子は、白髪にアイスブルーの瞳をしているだろうがな」

そんなのは真っ赤な嘘だけれど、真実を知らないアデルバート様を怒らせるには、その言葉は充分だったようだ。

「!」

次の瞬間、吹き付ける雪を焼き尽くすような炎が、ラーシュ目掛けて襲いかかってきた。
でもラーシュは平然と、氷の壁を出現させて攻撃を防いだ。
炎と氷の熱がぶつかり合い、凄まじい蒸気が辺りを包んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 見た目と真逆で口が悪いノアが、後宮を出て自由に暮らそうと画策したり、ユリウスをモノにしようとあれこれ画策するも失敗ばかりするお話し。 他の王子たち、異世界からやってきた自称聖女、ノアを娶りたい他国の王子などが絡んできて、なかなか距離が縮まらない二人のじれじれ、もだもだピュアラブストーリー、になるといいな……

【完結】転生した悪役令嬢の断罪

神宮寺 あおい
恋愛
公爵令嬢エレナ・ウェルズは思い出した。 前世で楽しんでいたゲームの中の悪役令嬢に転生していることを。 このままいけば断罪後に修道院行きか国外追放かはたまた死刑か。 なぜ、婚約者がいる身でありながら浮気をした皇太子はお咎めなしなのか。 なぜ、多くの貴族子弟に言い寄り人の婚約者を奪った男爵令嬢は無罪なのか。 冤罪で罪に問われるなんて納得いかない。 悪いことをした人がその報いを受けないなんて許さない。 ならば私が断罪して差し上げましょう。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

【完結】さようならと言うしかなかった。

ユユ
恋愛
卒業の1ヶ月後、デビュー後に親友が豹変した。 既成事実を経て婚約した。 ずっと愛していたと言った彼は 別の令嬢とも寝てしまった。 その令嬢は彼の子を孕ってしまった。 友人兼 婚約者兼 恋人を失った私は 隣国の伯母を訪ねることに… *作り話です

従姉が私の元婚約者と結婚するそうですが、その日に私も結婚します。既に招待状の返事も届いているのですが、どうなっているのでしょう?

珠宮さくら
恋愛
シーグリッド・オングストレームは人生の一大イベントを目前にして、その準備におわれて忙しくしていた。 そんな時に従姉から、結婚式の招待状が届いたのだが疲れきったシーグリッドは、それを一度に理解するのが難しかった。 そんな中で、元婚約者が従姉と結婚することになったことを知って、シーグリッドだけが従姉のことを心から心配していた。 一方の従姉は、年下のシーグリッドが先に結婚するのに焦っていたようで……。

え?後悔している?それで?

みおな
恋愛
 婚約者(私)がいながら、浮気をする婚約者。  姉(私)の婚約者にちょっかいを出す妹。  娘(私)に躾と称して虐げてくる母親。  後悔先に立たずという言葉をご存知かしら?

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

処理中です...