29 / 166
29.温かな手
しおりを挟む
モーリス侯爵令嬢がいなくなると、すぐにアデルバート様が私の所へいらっしゃった。
「何故このような……」
「申し訳ございません。サロンが滅茶苦茶になってしまいましたわ……」
「部屋などどうでも良い。お前の事だ、シャトレーヌ。」
「だ、旦那様!申し訳ございません!奥様は我々を守ろうと……」
「私達に結界を張ったせいで奥様が怪我をされたのです」
エブリン達が、必死に弁明してくれる。
でも、私の力不足が露呈したのは間違いない。アデルバート様はさぞかしがっかりなさっているでしょう。
「……今まであれの行動を咎めなかった私のせいで、お前に怪我をさせてしまった。すまない」
突然、私に向かってアデルバート様が頭を下げた。予想外のその行動に私は慌てた。
「アデルバート様、顔をあげて下さい」
私は、傷ついた手でそっとアデルバート様の手に触れた。
「モーリス侯爵令嬢を怒らせてこのような事態を招いたのは私の責任です。……それに、怪我を負ったのは私自身の力不足のせいですし……」
「いや、お前に非はない。……それより、早く手当を。……それからオーキッド、事の顛末を報告せよ」
「は、はい!」
「只今!」
アデルバート様の指示で、皆が一斉に動き始める。魔力が回復すれば、この位の傷なら治せるのだけれど、今はまだ駄目だわ。本当に、自分が自分で恨めしくなる。
「お嬢様……なんて無茶をなさるのですか」
用意された別室で、私は使い物にならなくなってしまったワンピースを脱ぐ。
エブリンが涙目になりながら傷口の手当をしてくれた。
「ごめんなさい……でも、あなた達が無事で本当に良かったわ」
エブリンを安心させるように微笑むと、頬の傷が傷んだ。
顔を顰めると、エブリンが心配そうな顔をした。
「頬と、手のお怪我が酷いです。私には手当をすることしか出来ませんから、魔力が戻り次第、すぐに治癒魔法を使って下さいね」
「分かっているわ」
ノックの音が聞こえ、アデルバート様が顔を出した。
「大事ないか?」
「ええ。ご心配には及びませんわ」
アデルバート様は私の側にやってくると、跪いた。
「オーキッドとメイド達から話は聞いた。シャトレーヌ、本当にすまなかった」
「アデルバート様が謝罪することではありません。私が上手く立ち回れなかったせいですと申し上げたではありませんか」
すると、アデルバート様は私の顔を覗き込んできた。
「……マリアンヌは私の父の妹の子だが、母親を早くに亡くし、我儘放題に育てられてな。酷い癇癪持ちも大人になってからも治らなかったのを、私も見て見ぬふりをしていた。あれが私に好意を寄せているのも知っていたが、妹のようなものとしか思っていなかったからな。……私の無関心が、結果的にシャトレーヌを傷付ける形になってしまった」
アデルバート様の大きな手が、私の頬の怪我に触れた。
優しく触れたその手を、私はここに来て初めて、心から温かいと感じた。
「何故このような……」
「申し訳ございません。サロンが滅茶苦茶になってしまいましたわ……」
「部屋などどうでも良い。お前の事だ、シャトレーヌ。」
「だ、旦那様!申し訳ございません!奥様は我々を守ろうと……」
「私達に結界を張ったせいで奥様が怪我をされたのです」
エブリン達が、必死に弁明してくれる。
でも、私の力不足が露呈したのは間違いない。アデルバート様はさぞかしがっかりなさっているでしょう。
「……今まであれの行動を咎めなかった私のせいで、お前に怪我をさせてしまった。すまない」
突然、私に向かってアデルバート様が頭を下げた。予想外のその行動に私は慌てた。
「アデルバート様、顔をあげて下さい」
私は、傷ついた手でそっとアデルバート様の手に触れた。
「モーリス侯爵令嬢を怒らせてこのような事態を招いたのは私の責任です。……それに、怪我を負ったのは私自身の力不足のせいですし……」
「いや、お前に非はない。……それより、早く手当を。……それからオーキッド、事の顛末を報告せよ」
「は、はい!」
「只今!」
アデルバート様の指示で、皆が一斉に動き始める。魔力が回復すれば、この位の傷なら治せるのだけれど、今はまだ駄目だわ。本当に、自分が自分で恨めしくなる。
「お嬢様……なんて無茶をなさるのですか」
用意された別室で、私は使い物にならなくなってしまったワンピースを脱ぐ。
エブリンが涙目になりながら傷口の手当をしてくれた。
「ごめんなさい……でも、あなた達が無事で本当に良かったわ」
エブリンを安心させるように微笑むと、頬の傷が傷んだ。
顔を顰めると、エブリンが心配そうな顔をした。
「頬と、手のお怪我が酷いです。私には手当をすることしか出来ませんから、魔力が戻り次第、すぐに治癒魔法を使って下さいね」
「分かっているわ」
ノックの音が聞こえ、アデルバート様が顔を出した。
「大事ないか?」
「ええ。ご心配には及びませんわ」
アデルバート様は私の側にやってくると、跪いた。
「オーキッドとメイド達から話は聞いた。シャトレーヌ、本当にすまなかった」
「アデルバート様が謝罪することではありません。私が上手く立ち回れなかったせいですと申し上げたではありませんか」
すると、アデルバート様は私の顔を覗き込んできた。
「……マリアンヌは私の父の妹の子だが、母親を早くに亡くし、我儘放題に育てられてな。酷い癇癪持ちも大人になってからも治らなかったのを、私も見て見ぬふりをしていた。あれが私に好意を寄せているのも知っていたが、妹のようなものとしか思っていなかったからな。……私の無関心が、結果的にシャトレーヌを傷付ける形になってしまった」
アデルバート様の大きな手が、私の頬の怪我に触れた。
優しく触れたその手を、私はここに来て初めて、心から温かいと感じた。
4
お気に入りに追加
1,228
あなたにおすすめの小説
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。
水樹風
恋愛
とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。
十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。
だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。
白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。
「エルシャ、いいかい?」
「はい、レイ様……」
それは堪らなく、甘い夜──。
* 世界観はあくまで創作です。
* 全12話
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる