冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

待望の知らせ(2)

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エドアルドに促されるようにして執務室に置かれた長椅子へと移動したクラリーチェは、エドアルドと向かい合う形で座った。
二人が席に着くのを見計らっていたかのように、リディアとアンナがティーセットを手に入室してきた。

「本当に、何ともないのか?心做しか、手も冷たいような………」

クラリーチェの手を弄りながら、エドアルドが心配そうに覗き込む。
リディアに続いてエドアルドにもいつもと違う点を指摘されると、クラリーチェは益々不安になってきた。

「体調は問題ありませんよ。強いて言うなら、少し頭がぼうっとして眠たい気がするだけで………」

その時、ガチャンと大きな音が執務室に響いた。
エドアルドもクラリーチェも、驚いて音がした方を見ると、リディアがポットの蓋を落としていた。

「…………失礼、致しました。新しいものをご用意致します」

深々と頭を下げたリディアだったが、彼女の栗色の瞳には僅かな動揺の色が見て取れた。

「そなたが粗相をするとは珍しいな」

エドアルドはちらりとリディアの方を見ただけで、彼女の様子には気がついていないようだった。
確かにリディアが失敗をするのは珍しいことだ。ーーーいや、寧ろ初めて見たかもしれない。

(いくらリディアでも、人間なのだから失敗くらいはあるわ。………でも………)

先程の言動といい、今の表情や失敗といい、いつものリディアらしくないのは確かだった。
自分自身で感じる違和感とリディアの件は、全く無関係なのだろうか。

「あ…………」

そんな事をぐるぐると考えていると、頭から血が引いていく。
目の前に黒い幕を降ろされたかのような感覚を覚え、クラリーチェはソファの背もたれへと倒れかかった。

「クラリーチェ?!」
「王妃様!」
「クラリーチェ様!!」

エドアルドとリディア、そしてアンナがほぼ同時に叫んだのが、酷く遠くで聞こえる。

「…………大丈夫………。ほんの少し、目眩がしただけで…………」
「大丈夫な訳があるか!そのように真っ青な顔をして…………!!執務は中止だ!すぐに医師を呼べ!」

エドアルドは物凄い剣幕でそう捲し立てると、即座に立ち上がった。
そしてすぐにクラリーチェの許へと歩み寄り、隣に腰を下ろす。
そしてクラリーチェの身体を慎重に自分自身の方へと凭れ掛からせると、手首を掬い上げた。

「………少し、脈が早いな。寝室まで運ぼう。それから服も楽なものに着替えたほうがいい」

大したことはない、と伝えようと顔を上げると、エドアルドの透き通った水色の瞳が不安気に揺れるのが目に入る。

(エドアルド様にあまり心配を掛けてはいけないわね。………きっと、少し休めば元通りになるわ)

クラリーチェはそう思い直すと、エドアルドの提案に素直に従ったのだった。
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