冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

侯爵夫人の親心(後)

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当時、戸惑いながら登城したカンチェラーラ侯爵夫人に、詳細を説明したのは他でもないエドアルドだった。
長らくトゥーリ伯爵家で虐待されながら育ち、挙げ句の果てにフィリッポの側妃として後宮へと追いやられ、冷遇されていたと聞いたときは胸が抉られるような気持ちになったことを今でもはっきりと思い出す。

「ずっと連絡が取れなかった親友の娘に会わせていただく機会を作っていただいた陛下には、感謝してもし足りないくらいです
「あの時のお前は、本当に嬉しそうだったな」

夫人の隣で、カンチェラーラ侯爵も穏やかな笑顔を浮かべる。
彼もまた、エドアルドとクラリーチェのよき理解者だ。

「やせ細って、今にも儚く消えてしまいそうだったクラリーチェ様がこんなにも強くなられて……」
「それは夫人のご指導のお陰ですわ。特にデビュタントの時には夫人の教えがなければあのような振る舞いは出来ませんでした」

はにかみながらクラリーチェはティーカップを口にする。
その動作が一瞬、クラリーチェの母マリエッタに見えて、カンチェラーラ侯爵夫人ははっとした。

「………夫人?」
「あ、いえ……今一瞬、クラリーチェ様がマリエッタに見えた気がして………。私も年を取ったということですわね」

ほほほ、と上品な笑いを零しながら夫人はもう一度クラリーチェを見た。

幸せそうなクラリーチェは、本当に結婚したばかりの頃のマリエッタとそっくりだった。
もし彼女が生きていたら、クラリーチェの姿を見て何と言うだろうか。
沢山の人達の手を借りながら、その手で幸せを掴んだ娘を、誇らしく思っているだろうか。
そんな事を考えていると、目頭に熱いものがこみ上げてきた。

「夫人は何度も私の事を『私達の娘』と仰って下さいましたよね?………私も、母が………両親が生きていたらきっと、侯爵夫妻のようだったのではないかと、勝手に面影を重ねておりました」

クラリーチェが穏やかに微笑むと、カンチェラーラ侯爵夫妻は少し驚いたような顔をして、それからまた嬉しそうに微笑んだ。

「私達はいつでもクラリーチェ様の『両親』になる準備は出来ております。ですから安心して下さいね」
「………それは、どういう意味だ………宰相?」

突然、ひやりとした声がして、そちらの方に視線を向けると、エドアルドが明らかに不機嫌そうな顔をしていた。

「私が、クラリーチェを追い出すとでも言いたいのか?」
「あ、いえ…………そういう意味ではなく………」
「例えば気分転換したい時や、………そうですね………御懐妊された時など、困った時はいつでも頼ってくださって構わないと………そうお伝えしたかったのですよ」
「……………!」

カンチェラーラ侯爵夫人の言葉に、エドアルドとクラリーチェは瞬時に顔を真っ赤に染めた。

(あらあら………王子か王女をこの手に抱けるのは、もう少し先の話になるのかしら…………?)

柔らかな笑みを浮かべたまま、カンチェラーラ侯爵夫人はそっと心の中で溜息をついたのだった。
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