冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

侯爵夫人の親心(前)

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ある昼下りの午後。
カンチェラーラ侯爵夫人は王宮の一室で主人であるカンチェラーラ侯爵と共に待機していた。
それは、からお茶の誘いを受けたからに他ならなかった。

「ごめんなさい………。お待たせしてしまいましたか?」

扉が開いたかと思うと、エドアルドとクラリーチェが共に入室してきた。

「まあ、とんでもございませんわ」

カンチェラーラ侯爵夫人は立ち上がると、優雅な仕草でカーテシーをする。

「陛下、妃殿下のお招き頂けて、本当に嬉しい限りです」
「まあ、侯爵夫人………そんな他人行儀な態度は寂しいです。どうぞ今までと同じようにクラリーチェとお呼びください。私にとって、侯爵夫妻は第二の両親と思える、特別な存在なのです」

エドアルドと結婚してから益々その美しさに磨きがかかったクラリーチェは、まさに輝かんばかりの笑顔を浮かべる。

「侯爵夫人はクラリーチェの指南役でもあり、母親代わりだからな」

穏やかな笑みを浮かべたエドアルドがじっとクラリーチェを見つめながら呟いた。
以前は厳しい表情ばかりだったエドアルドも、クラリーチェと結ばれて以降は随分と表情が柔らかくなったと、家臣達の間で密かに噂されているなど、本人は知る由もなかった。

「勿体ないお言葉ですわ。でも、クラリーチェ様がそう感じてくださっているのは光栄な事ですわね。………今思い起こしても、陛下からお話を頂いたときは本当に驚きましたよ」

カンチェラーラ侯爵夫人はそう言いながら嬉しそうに、そして懐かしそうに微笑んだ。

カンチェラーラ侯爵夫妻の間には、二人の子供がいるがどちらも男子だった。
既に二人共成人して、嫡男は宰相補佐を務め、二男は外交執政官として共に活躍している。
特段、不満はなかったが心のどこかに『娘』に対する憧れが存在したのも事実だった。
そんな時にエドアルドから親友マリエッタの忘れ形見であるクラリーチェの教育係を引き受けてくれないかという打診があった。

初めにその話があった時、侯爵夫人は不思議に思った。
社交界で耳にするクラリーチェの噂は悪意に満ちたものばかりで、侯爵夫人には到底信じられるようなものではなかったが、一年ほど前にフィリッポ国王の側妃として召し上げられたときいた時は希望が失われたような、何とも言えない気持ちになったものだった。
だが、フィリッポが崩御した途端に何故新国王となったエドアルドにクラリーチェが保護されている理由が分からなかったのだ。
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