冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(46)

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「………不思議だな。銀木犀の花は、こんなにも香りが強いのに、花姿は慎ましく可愛らしい。……まるで、君のようだ」

ダンテは腕を伸ばして、銀木犀の枝を一枝手折ると、すっとアンナに差し出した。
小さな花姿からは想像も出来ないような強い香りがすぐ近くで感じられて、アンナは思わず息を深く吸い込んだ。

「とても控え目で、自己主張はしないのに、こんなにも私の心を惹きつけて離さない………。私にとって君はこの世で最もかぐわしく、美しい花だ」
「ダ、ダンテ様………。恥ずかしいです………」

アンナはふっくらとした頬をほんのり朱に染めながら、榛色の瞳を僅かに伏せる。

「君は、ずいぶんと恥ずかしがり屋なんだな。………そんなところも私には愛おしくて仕方ないが…………」

ダンテは柔らかな笑みを浮かべると、この前と同じように銀木犀の枝をアンナの髪に挿した。

「………この、銀木犀の産地である東の帝国では、逢引の前に、この花を漬け込んだ酒を口に含んで香りを纏うのだそうだ」
「そうなのですね………。そのような素敵なお話、私………全然知らなかったです。ダンテ様はとても物知りなのですね」

アンナが顔を上げてダンテに尊敬の眼差しを向けると、ダンテは少し照れながら頭を掻いた。

「実は………王立図書館を管理されているレッジ子爵殿に恥をかかせないようにと………、数日前からたくさん本を読むようにしているんだ。………だが、物語などはどうも苦手で………。それで、思いついたのがこの花だった。植物図鑑など、子供の頃に毒草の知識を身に着けるのに読んだきりで、なかなか新鮮だったな」
「ダンテ様………」

数日前、ということは以降、つまりアンナがレッジ子爵家の養女になるということが分かった時点で図書館へと足を運んだということになる。
アンナ自身、まだ「アンナ」から「アンナ・レッジ」となったことに実感が持てていないのにもかかわらず、ダンテが養父ちちのことまで気にかけてくれていたということに、胸がいっぱいになる。

「………いつか………君もそうして私の気を引こうとしてくれるだろうか………?」

ダンテの指が、そして大きな掌がアンナの頬に優しく触れた。
その部分から、熱が全身に広がっていくような感覚をアンナは覚える。

「………いつかではありません。今、この時だってダンテ様の心を独り占めしたいと思っています…………」

ダンテの手にそっと、己の手を重ねると、アンナはぎゅっとその手を握りしめてその感触を、その温もりを確かめるように頬擦りをした。
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