冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(42)

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どれくらいの間、そうしていただろう。
満ち足りた笑顔を浮かべていたダンテが、ふと何かを思い出したように顔を上げるとアンナの耳元で囁いた。

「………このまま一緒に、陛下と妃殿下に報告にいってくれないか?」
「えっ………?」

突然の提案に、アンナは戸惑った。
たった今互いの想いを知ったばかりだというのに、それを国王に報告に行かなければならないというのか。
確かに、ダンテの置かれている立場を考えれば当然なのかもしれないが、気恥ずかしさと混乱で、アンナは困ったような顔を浮かべた。

「大丈夫だ。君はただ、訊かれたことに対して正直に答えてくれればいい。後は私がなんとかする」

先程までとは打って変わって、真剣な、そして何処か不安そうな表情で、ダンテはアンナにそう告げた。

「………何か、気がかりなことでも………?」

何だかただ事ではない様子のダンテに、アンナの心も急に不安になる。

「………実は、ここに来る前に………陛下と妃殿下が、あなたをレッジ子爵の後妻として嫁がせるような話をされていたのを耳にして………それで、居ても立っても居られなくなって…………」

ダンテの話を聞いて、アンナは驚愕した。

「レッジ子爵………とはあの図書館の管理をされている…………?わ、私が?あの方の………?」

クラリーチェの護衛として、クラリーチェが王立図書館へと足を運ぶ際は同行していたため、レッジ子爵とも顔見知りとなっていたのだった。

「レッジ子爵は良い御仁だが、君を嫁がせたりなんて、絶対にさせない。………例えそれが陛下のご意向であったとしても………」

栗色の目には強い決心が浮かんでいた。



「陛下、よろしいでしょうか?」

それから数分後、ダンテとアンナは仲良く手を繋いで、扉の前に立っていた。
慣れた様子で扉を叩くと、内側から扉が開けられる。

「陛下!お願いがあって参りました」
「珍しいこともあるものだな。………アンナを伴って来たことにも、何か意味があるのだな?」

まるで先読みの力でも持っているかのような、そんな言い方だった。
ダンテは少しの躊躇いもなく頷くと、ぎゅっとアンナの小さな手を握り締めたのだった。

「私は、このアンナを将来の伴侶として選びました。彼女の優しさと、その笑顔の美しさに、心を奪われたのです。…………そして幸運な事に、彼女もまた私と同じ気持ちを私に対して抱いていてくれたのです」

穏やかな口調で、ダンテはエドアルドへと訴えた。

「………ですから、アンナをレッジ子爵の元へは………っ!アンナをレッジ子爵の後妻に据えるという件だけは、どうか……!」

ダンテの言葉に、エドアルドがぴくりと反応し、それから微動だにしなくなった。
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