冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(36)

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夢のような幸せな時間が終わって部屋に戻ってからも、ダンテはまだその余韻に浸っていた。

アンナの背中のぬくもりが手に残っているようで、それを噛みしめるように己の掌をじっと見つめながら、愛しい彼女の名を口にする。

「アンナ…………」

あのひと時で明確になったことがあった。
それは、もう自分がアンナと距離を置くのは難しいという事だった。
自分の気持ちを誤魔化そうとして、事実から目を背ければ背けるほど、彼女のいない世界など考えられないくらいに、ダンテの中でアンナの存在は大きくなっていたのだ。

それでも、自分の気持ちをアンナに伝えようという勇気は中々出せなかった。
自分の気持ちを打ち明ければ、おそらくアンナは恐縮してしまうだろう。
だから、その一歩が踏み出せなかった。

優しいアンナは、ダンテの気持ちを拒むことはしないだろう。
むしろ、受け入れてくれる可能性の方が高い。
だがそれは、アンナが心から受け入れてくれてのことなのだろうかと考えてしまう。

リディアからの話だと、彼女は平民出身で天涯孤独の身であることに酷く劣等感を感じているのだという。
そんな彼女に自分が想いを告げれば、彼女は拒否したくても出来ないのではないだろうか。
つまり、自分の気持ちを正直にアンナに告白をすれば、アンナに対して自分の気持ちを押し付けるような気がしたのだ。

「俺は、どうすればいいんだ………?」

ダンテは盛大に溜息をついて、天井を仰いだ。

彼女の意思を尊重したいが、そのためには彼女と対等になる必要がある。

手っ取り早いのは、ダンテが近衛騎士団長の位もコルシーニ伯爵子息という貴族の身分も捨てて平民になること。
だが、そうなれば近衛騎士として留まることは叶わなくなり、騎士を続けるとしても平民の騎士は城下町の警備を担当する騎士団への配置換えとなる。
つまり、エドアルドやラファエロの身辺警護からは外れるということになるのだ。

勿論元コルシーニ家の人間として、王の影として動くことは可能だが、いくら元貴族とはいえ、平民となれば行動範囲も限られるようになる。

つまりはダンデにとって、恋を取るか忠誠を取るかという、究極の選択だった。

ダンテは、国王に仕える為に育てられた。主であるエドアルドを守ることが、ダンテの存在意義だ。

アンナとエドアルドの、どちらが大切だとか、どちらかなら切り捨てられるだとか、そんな簡単に選べる内容ではなかった。
ダンテは眉間に深い皺を刻むと、もう一度盛大に溜息をつくのだった。
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