冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(32)

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オズヴァルド滞在中ダンテは、職務の上では実に平和な生活を送ることが出来た。
だが、気持ちの上では不安なことこの上なかった。

ようやくアンナが名を呼んでくれるようになったのは非常に大きな進歩に違いなかった。
だが、それ以上の進展もなかった。
話しかけようとしてもなかなかうまくいかず、運良く話しかける事が出来たとしても、会話が弾まない。
以前は普通に話せていたはずだと思うが、今となってはどんなふうに会話を交わしたのかということですら、全く思い出せない状況だった。

「もしかしたら俺はアンナに嫌われているのかもしれんな………」

ダンテは盛大な溜息を零した。
恋の病とはよく言ったもので、彼女を恋しいと思う心は少しずつ、だが確実にダンテの心を蝕み、微熱を生んでいく。
想いは募る一方なのに、焦れば焦るほどにアンナの態度は余所余所しくなるような気がした。

「お前も、苦労が絶えないみたいだな」

部屋の前で護衛をしているダンテに話しかけてきたのは、オズヴァルドの王太子・リベラートだった。

「リベラート殿下…………」
「悩んでますって、顔に書いてあるぞ?」

揶揄うように微笑むと、リベラートはダンテの肩を叩いた。

「お前がそこまで悩むということは、仕事の事ではなさそうだな。…………もしかして、女か?」

途端にダンテの顔が真っ赤に染まるのを見て、リベラートは驚いた。

「え………もしかして、図星だったのかい?それはすまなかったな。別に揶揄うつもりはなかったんだ」
「………私の方こそ申し訳ございません。こういった事に慣れていないもので………」

恥ずかしそうに俯くダンテが妙に萎れているように見えて、リベラートは溜息をついた。

「恋愛なんて、自分の思い通りになどいかないものだ。自分の気持ちの問題だけではないからな。その上、悩めば悩むほどに悩みも深くなるのも厄介だな」

何かを思い出すように懐かしそうに、けれども何処か寂しそうに目を細めて、リベラートは囁く。
リベラートにもそのような経験があったのだろうか。
ダンテは何も言わず、じっとリベラートの言葉に耳を傾けた。

「………お前は真面目で不器用すぎる。もう少し肩の力を抜いてみるといい。それから、時には相手の立場に立って、客観的に物事を見てみるということも大切かもしれないぞ」

ラファエロと似た、穏やかな笑みを浮かべたリベラートがぽん、とダンテの肩を叩いた。

「私が助言出来る事は以上だ。健闘を祈る」
「はい。ありがとうございます」

ダンテは深々と頭を下げると、心の中でリベラートの言葉を何度も何度も反芻するのだった。
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