冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(30)

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「なぁ、テオ」
「何ですか、団長?」

結局その夜一睡も出来なかったダンテは、馬に揺られながら馬車を挟んで反対側を並走するテオに声を掛けた。

「お前はもしリディアが、元気がないように見えたらどうする?」
「え?何ですか、急に………」

驚いた表情を浮かべたテオは、それでも少し考えてから口を開く。

「そうですね………、私じゃ力になれないかもしれませんけれど、とりあえずよく話を聞いてアドバイスするとかですかね。場合によっては励ましたりすると思います」

いかにもテオらしい答えだった。
実際にリディアにそんなことをしようものなら「余計なお世話です」と一蹴されるのが関の山だろうが、それは今どうでも良かった。

「そうか。………ではもしリディアに………」

そこまで口にして、自分は一体何をテオに訊ねようとしているのかと考えて押し黙る。

「…………団長?」
「すまん、やはり………何でもない。今のは忘れてくれ」

盛大に溜息をつきながら、愛馬の手綱を強く握り締めた。
そうでもしないと、とてもではないが平常心を保っていられそうになかったからだ。

「………何か最近の団長、おかしくないですか?」

怪訝そうに眉を顰めたテオに指摘されて、ダンテの体が馬上で跳ねた。

「莫迦を言うな!はいつもどおりだ!」

珍しく声を荒げるダンテに、テオは更に驚いたようだった。
灰色の瞳を大きく見開いた後、視線を彷徨わせた。

「団長。いくら苛立っても、それはなんの解決にもなりませんよ。自分の思い通りにならなくて、どうしたらいいのか分からずに混乱するのは仕方のない事ですが、それを怒りに変えて周囲に振りまくのは違うと思います」
「…………っ!」

テオはいつもどおりの真っ直ぐな視線と言葉で、ダンテの振る舞いを窘めた。
あまりにも正論すぎて返す言葉が見つからず、ダンテは息を吸い込んだ。

「相手を思うのであればまず、きちんと自分の気持ちに向き合い、自分が何をすべきなのかを考えるべきではないでしょうか」

追い打ちをかけるように、テオが言葉を紡ぐ。
そのとおりだった。
混乱して、テオに怒りをぶつけるのは違う。それはアンナを困らせたくない、アンナに嫌われたくないという自分の弱さから逃げているだけだ。

「………そうだな。お前の、言うとおりだすまない」

自己嫌悪の溜息をつきながら、ダンテが謝罪の言葉を口にすると、テオは恐縮した様子で首を振った。

「いえ。私の方こそ生意気言って、申し訳ありません。団長にはいつも相談に乗って頂いてばかりですから、少しでもお役に立てれば嬉しいです」

いつもどおりの爽やかな笑顔を浮かべるテオに、ダンテは心から感謝した。
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