236 / 268
番外編
騎士団長の恋愛事情(28)
しおりを挟む
「お兄様!ダンテお兄様!」
詰め所へと戻る途中で、ダンテはリディアに呼び止められた。
「リディア…………。そのように大きな声を出さなくても、聞こえているぞ」
「全く………。最近、陛下の朝の鍛錬がなくなったからと、少し呆けているのではありませんか?先程からずっと呼んでいたのですよ?」
呆れ顔を浮かべる実妹に、ダンテは焦ったように弁明の言葉を口にした。
「あ、いや………っ。決してそういう訳ではないんだ。ここのところずっと忙しくて、少し疲れているだけだ………」
「言い訳は結構です。視察旅行の件、陛下からお話があったんでしょう?………少しはアンナと打ち解けておいた方がいいのではないですか?」
「は?!」
「大声を出すなとご自分で言っておきながら………」
「すまん。………で、何故アンナと私が打ち解ける必要が?」
既にそれなりに打ち解けているつもりなのに、リディアの口からそのような提案がなされた事に、正直驚いていた。
「お兄様………。未だにアンナに『騎士団長様』って呼ばれているではありませんか。名前すら呼んで貰えていないという自覚はありますか?」
リディアは大袈裟に溜息をついた。
ダンテはビクリと大柄な体を揺らした。
それは、ダンテ自身が以前から気にしていた事だった。
アンナは、決してダンテの事を名前で呼ばない。リディアや、近衛騎士達は全ては名前で呼ばれているのに、ダンテは未だに『近衛騎士団長様』もしくは『騎士団長様』としか呼んでくれない。
それが、アンナとの心の距離のような気がして、ダンテは自分も名前で呼んでほしいと頼むことが出来なかった。
これ以上親しくしない方が彼女の為だと思いながらも、名を呼んでほしいと願う心の矛盾をどうしたらいいのか、ダンテには分からなかった。
そんな一番触れられたくない事を平然と指摘してくる妹に苛立ちを覚え、ダンテは少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「それならお前だって同じだろう。テオと仲良くしておいたほうが良いのではないのか?」
「…………余計なお世話です」
リディアの事で、テオからは随分前から相談を受けていた。
テオの事は、ダンテも一目置いていたが、リディアがテオを全く意識していないのを兼ねてから気の毒に思っていた。
仕返しだとばかりに向けた悪意に、リディアは見るからに不機嫌になった。
「………まあ、お互い努力だな」
苛立たしげに睨みつけてくる妹をあしらうと、ダンテは溜息を一つ零してから再び歩き始めた。
詰め所へと戻る途中で、ダンテはリディアに呼び止められた。
「リディア…………。そのように大きな声を出さなくても、聞こえているぞ」
「全く………。最近、陛下の朝の鍛錬がなくなったからと、少し呆けているのではありませんか?先程からずっと呼んでいたのですよ?」
呆れ顔を浮かべる実妹に、ダンテは焦ったように弁明の言葉を口にした。
「あ、いや………っ。決してそういう訳ではないんだ。ここのところずっと忙しくて、少し疲れているだけだ………」
「言い訳は結構です。視察旅行の件、陛下からお話があったんでしょう?………少しはアンナと打ち解けておいた方がいいのではないですか?」
「は?!」
「大声を出すなとご自分で言っておきながら………」
「すまん。………で、何故アンナと私が打ち解ける必要が?」
既にそれなりに打ち解けているつもりなのに、リディアの口からそのような提案がなされた事に、正直驚いていた。
「お兄様………。未だにアンナに『騎士団長様』って呼ばれているではありませんか。名前すら呼んで貰えていないという自覚はありますか?」
リディアは大袈裟に溜息をついた。
ダンテはビクリと大柄な体を揺らした。
それは、ダンテ自身が以前から気にしていた事だった。
アンナは、決してダンテの事を名前で呼ばない。リディアや、近衛騎士達は全ては名前で呼ばれているのに、ダンテは未だに『近衛騎士団長様』もしくは『騎士団長様』としか呼んでくれない。
それが、アンナとの心の距離のような気がして、ダンテは自分も名前で呼んでほしいと頼むことが出来なかった。
これ以上親しくしない方が彼女の為だと思いながらも、名を呼んでほしいと願う心の矛盾をどうしたらいいのか、ダンテには分からなかった。
そんな一番触れられたくない事を平然と指摘してくる妹に苛立ちを覚え、ダンテは少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「それならお前だって同じだろう。テオと仲良くしておいたほうが良いのではないのか?」
「…………余計なお世話です」
リディアの事で、テオからは随分前から相談を受けていた。
テオの事は、ダンテも一目置いていたが、リディアがテオを全く意識していないのを兼ねてから気の毒に思っていた。
仕返しだとばかりに向けた悪意に、リディアは見るからに不機嫌になった。
「………まあ、お互い努力だな」
苛立たしげに睨みつけてくる妹をあしらうと、ダンテは溜息を一つ零してから再び歩き始めた。
21
お気に入りに追加
7,127
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。