235 / 268
番外編
騎士団長の恋愛事情(27)
しおりを挟む
それから暫くの間、貴族の粛清や隣国オズヴァルドの王太子リベラートの来訪、そして開港祭の再開催にエドアルドとクラリーチェの結婚式と、次々に舞い込んで来る仕事のせいで息をつく暇もない程に多忙を極めたダンテは、アンナに会いに行く暇など全くなかった。
それでも、以前に比べれば仕事中に顔を合わせたり、会話を交わすくらいの事は出来るようになり、それを励みにまた頑張ろうと思えた。
そんなある日、突然エドアルドから呼び出しを受けた。
「オズヴァルドへの視察旅行に、アンナを連れて行くのですか?」
一度も国外に出たことのないクラリーチェの為に、オズヴァルドへの視察旅行を計画し、そこにダンテと近衛騎士のテオという青年、そしてクラリーチェの護衛も兼ねてリディアとアンナを連れて行くのだと聞き、ダンテは思わず声を上げた。
「アンナはクラリーチェの侍女なのだし、連れて行っても全く問題はないだろう」
エドアルドの言っている事は尤もだった。
だが、ダンテの心境は複雑だった。
行き先がオズヴァルドなら、危険は少ないだろうし、クラリーチェ同様にアンナも国外に出たことは無いだろうから、きっと喜ぶだろう。
だが危険はゼロではない。
いくらエドアルドとテオと自分がいて、オズヴァルド側も護衛をしてくれるとは言っても、国内よりも警護が手薄になる部分はあるだろう。
そして何よりも、自分の気持ちを抑えられそうになくて不安だった。
だが、自分の我儘でアンナを排除するのはあまりにも無理があるし、何よりも彼女が悲しむだろうと思うだけでも、胸の奥がずきりと痛んだ。
「………畏まりました」
幼少期から鍛え上げた精神力があれば、己を律する事は出来るはずだ。
アンナを大切に、そして愛おしく思うからこそ、彼女を不幸にしてはいけない。
自分に出来る事は、彼女が然るべき人と幸せになるのをそっと見守る事なのだと、ダンテは心の中で自分に言い聞かせる。
「では、決まりだな」
エドアルドは満足そうに頷くと、何故かじっとダンテの方を見つめてきた。
「………何か?」
「いや。………あの休暇の日以降、少し雰囲気が変わったなと思っただけだ」
「はあ………」
エドアルドは訝しげに眉を顰めるダンテから、窓の方へと視線を移した。
「………守るべきものが出来ると、変わるのだな」
「…………?」
唐突に落とされたエドアルドの言葉の意味が分からずに、ダンテは更に顔を顰めた。
「分からなければいい。………お前には負担を掛けてばかりだからな。お前にとっても、少しは息抜きになるといいのだが………」
何かを企むように嗤うエドアルドに、戸惑いながらもダンテは頭を下げるのだった。
それでも、以前に比べれば仕事中に顔を合わせたり、会話を交わすくらいの事は出来るようになり、それを励みにまた頑張ろうと思えた。
そんなある日、突然エドアルドから呼び出しを受けた。
「オズヴァルドへの視察旅行に、アンナを連れて行くのですか?」
一度も国外に出たことのないクラリーチェの為に、オズヴァルドへの視察旅行を計画し、そこにダンテと近衛騎士のテオという青年、そしてクラリーチェの護衛も兼ねてリディアとアンナを連れて行くのだと聞き、ダンテは思わず声を上げた。
「アンナはクラリーチェの侍女なのだし、連れて行っても全く問題はないだろう」
エドアルドの言っている事は尤もだった。
だが、ダンテの心境は複雑だった。
行き先がオズヴァルドなら、危険は少ないだろうし、クラリーチェ同様にアンナも国外に出たことは無いだろうから、きっと喜ぶだろう。
だが危険はゼロではない。
いくらエドアルドとテオと自分がいて、オズヴァルド側も護衛をしてくれるとは言っても、国内よりも警護が手薄になる部分はあるだろう。
そして何よりも、自分の気持ちを抑えられそうになくて不安だった。
だが、自分の我儘でアンナを排除するのはあまりにも無理があるし、何よりも彼女が悲しむだろうと思うだけでも、胸の奥がずきりと痛んだ。
「………畏まりました」
幼少期から鍛え上げた精神力があれば、己を律する事は出来るはずだ。
アンナを大切に、そして愛おしく思うからこそ、彼女を不幸にしてはいけない。
自分に出来る事は、彼女が然るべき人と幸せになるのをそっと見守る事なのだと、ダンテは心の中で自分に言い聞かせる。
「では、決まりだな」
エドアルドは満足そうに頷くと、何故かじっとダンテの方を見つめてきた。
「………何か?」
「いや。………あの休暇の日以降、少し雰囲気が変わったなと思っただけだ」
「はあ………」
エドアルドは訝しげに眉を顰めるダンテから、窓の方へと視線を移した。
「………守るべきものが出来ると、変わるのだな」
「…………?」
唐突に落とされたエドアルドの言葉の意味が分からずに、ダンテは更に顔を顰めた。
「分からなければいい。………お前には負担を掛けてばかりだからな。お前にとっても、少しは息抜きになるといいのだが………」
何かを企むように嗤うエドアルドに、戸惑いながらもダンテは頭を下げるのだった。
20
お気に入りに追加
7,152
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
魅了が解けた元王太子と結婚させられてしまいました。 なんで私なの!? 勘弁してほしいわ!
金峯蓮華
恋愛
*第16回恋愛小説大賞で優秀賞をいただきました。
これも皆様の応援のお陰だと感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
ありがとうございました。
昔、私がまだ子供だった頃、我が国では国家を揺るがす大事件があったそうだ。
王太子や側近達が魅了の魔法にかかり、おかしくなってしまった。
悪事は暴かれ、魅了の魔法は解かれたが、王太子も側近たちも約束されていた輝かしい未来を失った。
「なんで、私がそんな人と結婚しなきゃならないのですか?」
「仕方ないのだ。国王に頭を下げられたら断れない」
気の弱い父のせいで年の離れた元王太子に嫁がされることになった。
も〜、勘弁してほしいわ。
私の未来はどうなるのよ〜
*ざまぁのあとの緩いご都合主義なお話です*
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。