234 / 268
番外編
騎士団長の恋愛事情(26 SIDE:アンナ)
しおりを挟む
全てが終わった、その日の夜。
アンナはようやくクラリーチェとの再会を果たし、再び侍女としてクラリーチェに仕えることになった。
離れていた数ヶ月の間にあった出来事を一頻り話ながら肌や髪の手入れをしていると、何とも言えない充足感がアンナの心を満たした。
だがそれと同時に、寂しいような、落ち着かないような気持ちが心のどこかを彷徨っている気がして、アンナは溜息をついた。
「アンナ、今日は色々あって疲れたでしょう?後の事は私が引き受けるから、先に休みなさいな」
「リディア様………」
「あら、『様』付けなんて止めて頂戴。あなたも私も、クラリーチェ様付の侍女なんだから、今までどおり呼んでくれればいいわ」
そう言ってリディアはふわりと微笑んだ。
「あ………」
顔立ちはあまり似ていないのに、リディアの笑ったときの目元が、ダンテと似ていると感じた。
「私の顔に、何かついていた?」
「あ、いえ………。その、リディアさんと騎士団長様の、笑顔を浮かべた時の目元が似ているなぁって感じたので………」
すると、リディアは驚いたように目を丸くした。
「ダンテお兄様と、私が?そんな事、初めて言われたわ。………ふふっ。アンナはお兄様の事をとても良く見ているのね」
「えっ?!あ………っ、でも!あの………騎士団長様の事を好きだとか、そういう訳では………!!」
リディアの指摘に動揺したアンナは、慌てた。
「そう?じゃあそういう事にしておきましょうか。………ではまた明日、ね」
楽しそうに笑うリディアはひらひらと手を振りながら、扉を閉めたのだった。
部屋へと向かう途中も、何だか気持ちがもやもやとして、アンナは立ち止まった。
「そう言えば、王宮に戻ってきましたっていう報告………してないんだったわ………」
まるで自分自身に言い聞かせるかのように、アンナは小さな声で呟いた。
そして、小さく深呼吸を繰り返すと、意を決したかのように、ダンテ許へと向かった。
「騎士団長様!」
ダンテの姿を認めると、嬉しさのあまり思ったよりも大きな声が出てしまった。
その声に驚いたのだろうか、ダンテは少し慌てたようだった。
「ア、アンナ………っ。無事に、役目を終えたのか。ご苦労だったな」
低く、穏やかなのに強い声に労われると、アンナは嬉しさのあまり、思わず笑みを零した。
「はい!伯爵夫人からお墨付きを頂き、クラリーチェ様の侍女に戻ることが出来ました。これも全て、騎士団長様のお陰です」
「私の………?」
ダンテは驚いたように、アンナを見返した。
「はい。だって、騎士団長様は私を励ましてくださったではないですか。それに、偶然とはいえ先日公爵家の前でお会いした時も、気遣って頂いて………。私、すごく嬉しかったんです。だから、どうしてもお礼が言いたくて……。お仕事中なのに、申し訳ありませんでした!どうしても、それを伝えたかったんです。………それに、騎士団長様のお顔が見たくて………」
ぽろりと零れ落ちた、心からの言葉は、小声ではあったが、ダンテの耳にも届いてしまったのだろうか。
考えれば考えるほど、アンナは恥ずかしくなってきた。
「じゃあ、私はこれで失礼しますねっ。お仕事、頑張ってください」
きっと今、顔が真っ赤になっているだろう。
それをどうしてもダンテには見られたくなかった。ぺこりと元気よくお辞儀をすると、慌てて顔を背けながら急いで自室へと戻った。
扉を締めた途端に、安堵感のせいか膝から崩れるように、その場にへたり込む。
直接、この燻る気持ちをダンテに打ち明ければ、どんなに楽だろう。
でも彼と自分とでは立場が違いすぎる。
彼は貴族で、近衛騎士団長で、王の影の一員。
それに引き換え自分は、身寄りのない、財産もない、平凡な平民の娘。
優しいダンテは、自分が気持ちを打ち明けたとしたら、きっと困るだろう。
この恋心は、明かさないほうがお互いの為なのだ。
アンナは必死に、そう自分を納得させるのだった。
アンナはようやくクラリーチェとの再会を果たし、再び侍女としてクラリーチェに仕えることになった。
離れていた数ヶ月の間にあった出来事を一頻り話ながら肌や髪の手入れをしていると、何とも言えない充足感がアンナの心を満たした。
だがそれと同時に、寂しいような、落ち着かないような気持ちが心のどこかを彷徨っている気がして、アンナは溜息をついた。
「アンナ、今日は色々あって疲れたでしょう?後の事は私が引き受けるから、先に休みなさいな」
「リディア様………」
「あら、『様』付けなんて止めて頂戴。あなたも私も、クラリーチェ様付の侍女なんだから、今までどおり呼んでくれればいいわ」
そう言ってリディアはふわりと微笑んだ。
「あ………」
顔立ちはあまり似ていないのに、リディアの笑ったときの目元が、ダンテと似ていると感じた。
「私の顔に、何かついていた?」
「あ、いえ………。その、リディアさんと騎士団長様の、笑顔を浮かべた時の目元が似ているなぁって感じたので………」
すると、リディアは驚いたように目を丸くした。
「ダンテお兄様と、私が?そんな事、初めて言われたわ。………ふふっ。アンナはお兄様の事をとても良く見ているのね」
「えっ?!あ………っ、でも!あの………騎士団長様の事を好きだとか、そういう訳では………!!」
リディアの指摘に動揺したアンナは、慌てた。
「そう?じゃあそういう事にしておきましょうか。………ではまた明日、ね」
楽しそうに笑うリディアはひらひらと手を振りながら、扉を閉めたのだった。
部屋へと向かう途中も、何だか気持ちがもやもやとして、アンナは立ち止まった。
「そう言えば、王宮に戻ってきましたっていう報告………してないんだったわ………」
まるで自分自身に言い聞かせるかのように、アンナは小さな声で呟いた。
そして、小さく深呼吸を繰り返すと、意を決したかのように、ダンテ許へと向かった。
「騎士団長様!」
ダンテの姿を認めると、嬉しさのあまり思ったよりも大きな声が出てしまった。
その声に驚いたのだろうか、ダンテは少し慌てたようだった。
「ア、アンナ………っ。無事に、役目を終えたのか。ご苦労だったな」
低く、穏やかなのに強い声に労われると、アンナは嬉しさのあまり、思わず笑みを零した。
「はい!伯爵夫人からお墨付きを頂き、クラリーチェ様の侍女に戻ることが出来ました。これも全て、騎士団長様のお陰です」
「私の………?」
ダンテは驚いたように、アンナを見返した。
「はい。だって、騎士団長様は私を励ましてくださったではないですか。それに、偶然とはいえ先日公爵家の前でお会いした時も、気遣って頂いて………。私、すごく嬉しかったんです。だから、どうしてもお礼が言いたくて……。お仕事中なのに、申し訳ありませんでした!どうしても、それを伝えたかったんです。………それに、騎士団長様のお顔が見たくて………」
ぽろりと零れ落ちた、心からの言葉は、小声ではあったが、ダンテの耳にも届いてしまったのだろうか。
考えれば考えるほど、アンナは恥ずかしくなってきた。
「じゃあ、私はこれで失礼しますねっ。お仕事、頑張ってください」
きっと今、顔が真っ赤になっているだろう。
それをどうしてもダンテには見られたくなかった。ぺこりと元気よくお辞儀をすると、慌てて顔を背けながら急いで自室へと戻った。
扉を締めた途端に、安堵感のせいか膝から崩れるように、その場にへたり込む。
直接、この燻る気持ちをダンテに打ち明ければ、どんなに楽だろう。
でも彼と自分とでは立場が違いすぎる。
彼は貴族で、近衛騎士団長で、王の影の一員。
それに引き換え自分は、身寄りのない、財産もない、平凡な平民の娘。
優しいダンテは、自分が気持ちを打ち明けたとしたら、きっと困るだろう。
この恋心は、明かさないほうがお互いの為なのだ。
アンナは必死に、そう自分を納得させるのだった。
20
お気に入りに追加
7,154
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。