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番外編
騎士団長の恋愛事情(25 SIDE:アンナ)
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ダンテと別れてからも、彼の顔を思い出す度に胸の鼓動が激しくなり、心はざわついた。
他のことが何も手につかなくなりそうで、アンナは必死に仕事に集中しようとしたが、それは却って逆効果だった。
(勘違いしているだけ。騎士団長様は、特別私を気に掛けてくださっているわけではないんだから……!)
何十回、何百回と同じことを自分に言い聞かせながら、仕事に勤しむ。
どんなに否定しようとも、己の心を乱しているこの感情の正体からただ目を逸らしているだけで、それが何なのか分かっていた。
「駄目………。やっぱり………好き………」
悩まし気な溜息とともに吐き出された、素直な心を認めた瞬間、アンナは既に自分の気持ちがもう後戻り出来ないくらいまでに膨らんでしまっていることに気が付いたのだった。
そんなことを思い返していると、俄かに屋敷が騒がしくなってきた。
アンナはコルシーニ伯爵家から遣わされた他の使用人たちと共に、念入りに整えられた客室に用意された怪しげな香の中身をすり替えていた。それを証拠品として押収し、屋敷の主たちが王宮へと向かうタイミングを見計らって屋敷を出る手筈となっている。
掃除をしているフリをしながら様子を窺っていると、全身がぐっしょりと濡れ、意識のないたクラリーチェが、恍惚とした表情を浮かべたジュストに抱かれ、例の客室へと運ばれていく様が目に入り、全身の血が沸騰するような怒りを覚えた。
あれは、間違いなくクラリーチェの意思ではない。詳細まで聞かされてはいなかったが、ジュストがクラリーチェに執着しているという話は耳にしていたからだ。
クラリーチェが目を覚ます前に、ジュストを殺してしまおうか、などという不穏な考えまで浮かんできたが、何とか冷静さを取り戻す。
殺すのは簡単だが、それはクラリーチェの本意ではないはずだ。
あの心優しい主人は、どんな者にでも別け隔てなく手を差し伸べる。
そんな彼女だからこそ、自分の生涯を賭けて仕えたいと思ったのだから。
アンナはきゅっと唇を引き結ぶと、当初の予定通り、証拠の品々を持って王宮へと向かった。
「よく頑張りましたね、アンナ。あなたに教えることはもうありません」
王宮内の一室に通されたアンナを待っていたコルシーニ伯爵夫人は表情一つ動かさずに静かにアンナにそう告げた。
「伯爵夫人………。ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「恩義を感じてくれるのであれば、国王陛下と、未来の王妃殿下のために誠心誠意お仕えしなさい」
ほんの少し唇の端を持ち上げた伯爵夫人の笑みが、不思議な事に、どこか悲し気に見えた気がした。
他のことが何も手につかなくなりそうで、アンナは必死に仕事に集中しようとしたが、それは却って逆効果だった。
(勘違いしているだけ。騎士団長様は、特別私を気に掛けてくださっているわけではないんだから……!)
何十回、何百回と同じことを自分に言い聞かせながら、仕事に勤しむ。
どんなに否定しようとも、己の心を乱しているこの感情の正体からただ目を逸らしているだけで、それが何なのか分かっていた。
「駄目………。やっぱり………好き………」
悩まし気な溜息とともに吐き出された、素直な心を認めた瞬間、アンナは既に自分の気持ちがもう後戻り出来ないくらいまでに膨らんでしまっていることに気が付いたのだった。
そんなことを思い返していると、俄かに屋敷が騒がしくなってきた。
アンナはコルシーニ伯爵家から遣わされた他の使用人たちと共に、念入りに整えられた客室に用意された怪しげな香の中身をすり替えていた。それを証拠品として押収し、屋敷の主たちが王宮へと向かうタイミングを見計らって屋敷を出る手筈となっている。
掃除をしているフリをしながら様子を窺っていると、全身がぐっしょりと濡れ、意識のないたクラリーチェが、恍惚とした表情を浮かべたジュストに抱かれ、例の客室へと運ばれていく様が目に入り、全身の血が沸騰するような怒りを覚えた。
あれは、間違いなくクラリーチェの意思ではない。詳細まで聞かされてはいなかったが、ジュストがクラリーチェに執着しているという話は耳にしていたからだ。
クラリーチェが目を覚ます前に、ジュストを殺してしまおうか、などという不穏な考えまで浮かんできたが、何とか冷静さを取り戻す。
殺すのは簡単だが、それはクラリーチェの本意ではないはずだ。
あの心優しい主人は、どんな者にでも別け隔てなく手を差し伸べる。
そんな彼女だからこそ、自分の生涯を賭けて仕えたいと思ったのだから。
アンナはきゅっと唇を引き結ぶと、当初の予定通り、証拠の品々を持って王宮へと向かった。
「よく頑張りましたね、アンナ。あなたに教えることはもうありません」
王宮内の一室に通されたアンナを待っていたコルシーニ伯爵夫人は表情一つ動かさずに静かにアンナにそう告げた。
「伯爵夫人………。ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「恩義を感じてくれるのであれば、国王陛下と、未来の王妃殿下のために誠心誠意お仕えしなさい」
ほんの少し唇の端を持ち上げた伯爵夫人の笑みが、不思議な事に、どこか悲し気に見えた気がした。
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