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番外編
騎士団長の恋愛事情(24 SIDE:アンナ)
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年に一度の開港祭の日。
アンナは落ち着かない様子でブラマーニ公爵邸で窓を磨いていた。
近い将来王妃となるクラリーチェの侍女として必要な技術を身に付ける為に、リディアの実家であるコルシーニ伯爵家へと行儀見習いに行くようエドアルドから直々に伝えられてから数ヶ月。
クラリーチェへの忠誠心だけを励みに、護衛術や作法、教養など、膨大な量の知識と技術を頭と体に叩き込んだ。
挫けそうになったときに決まって思い出すのは何故か、クラリーチェではなくダンテの事だった。
精悍な顔に浮かぶ優しい笑顔を思い出す度に、胸の奥がざわつくような、今まで味わったことのない感情が湧き上がった。
そうすると、不思議と幸福感で心が満たされ、また頑張ろうと思えるのが不思議だった。
その感情が何なのか理解したのは数日前。
庭先の掃除をしていた時に、ふと垣根の外に目を向けるとそこにはダンテの姿があった。
いつもの騎士服ではなく、ラフな格好で馬を引く彼の憂い気な表情に、アンナは胸がきゅっと疼くのを感じた。
居ても立っても居られずに、アンナは箒を手にしたまま門の方へと走り、偶然を装って彼に声を掛けた。
「あら?………騎士団長様?こんな所でお会いするなんて………。お仕事の帰りですか?それとも、何か御用でも………?」
声を掛けると、ダンテは驚いたように目を見開いた。
「あ………いや、たまたま通りかかっただけだ。特に用事があった訳ではないんだ」
ダンテの素っ気ない態度に、声を掛けたのはまずかったのだろうかと、アンナはほんの少し不安になる。
ほんの少しでもいいから言葉を交わしたいと思ったが、彼に迷惑をかけてしまったのだろうか。
「………ブラマーニ家に潜入しているのだと聞いたが、………大丈夫なのか?」
声を潜めたダンテが、気遣うような表情で訊ねてきて、アンナは思わず瞠目した。
もしかして自分に会うためにここまで来てくれたのだろうかという、とんでもなく自意識過剰な考えがふと頭に浮かぶ。
何故そんな考えが浮かんだのか、自分自身が分からずに動揺したのだ。
「気に掛けて頂いてありがとうございます。ご覧のとおり、何も問題はありませんよ。でも、私のような者まで気に掛けて下さるなんて………騎士団長様はお優しいのですね」
動揺を隠すように、アンナはふわりと微笑んだ。
ダンテは優しい。
自分のような存在にもこうして心を砕いてくれる。
それは、自分だけに向けられているものではないと、分かっているつもりだった。
それなのに、どうしてこんなにも胸の奥が締め付けられるのだろう。
「あ………いや………、問題なければいいんだ。だが、まだ訓練を受けてから日が浅いのだから、無理はするな」
「ありがとうございます。伯爵夫人からこの任務をやり遂げたらクラリーチェ様の許に戻って良いとのお言葉を頂きましたので、多少辛いことがあっても頑張れます」
二人の間を、穏やかな風が駆け抜けていった。
その時、屋敷の方からアンナを呼ぶ声が聞こえて、アンナは振り返った。
「あ………呼ばれているみたいです。私はこれで失礼しますね。騎士団長様、クラリーチェ様をよろしくお願いします」
洗練された仕草でお辞儀をすると、アンナは逃げるように仕着せの裾を翻して小走りで公爵邸の中へと駆け込んだ。
変に、思われただろうか。
アンナは揺れ動く気持ちを落ち着かせようと、何度も何度も深呼吸を繰り返すのだった。
アンナは落ち着かない様子でブラマーニ公爵邸で窓を磨いていた。
近い将来王妃となるクラリーチェの侍女として必要な技術を身に付ける為に、リディアの実家であるコルシーニ伯爵家へと行儀見習いに行くようエドアルドから直々に伝えられてから数ヶ月。
クラリーチェへの忠誠心だけを励みに、護衛術や作法、教養など、膨大な量の知識と技術を頭と体に叩き込んだ。
挫けそうになったときに決まって思い出すのは何故か、クラリーチェではなくダンテの事だった。
精悍な顔に浮かぶ優しい笑顔を思い出す度に、胸の奥がざわつくような、今まで味わったことのない感情が湧き上がった。
そうすると、不思議と幸福感で心が満たされ、また頑張ろうと思えるのが不思議だった。
その感情が何なのか理解したのは数日前。
庭先の掃除をしていた時に、ふと垣根の外に目を向けるとそこにはダンテの姿があった。
いつもの騎士服ではなく、ラフな格好で馬を引く彼の憂い気な表情に、アンナは胸がきゅっと疼くのを感じた。
居ても立っても居られずに、アンナは箒を手にしたまま門の方へと走り、偶然を装って彼に声を掛けた。
「あら?………騎士団長様?こんな所でお会いするなんて………。お仕事の帰りですか?それとも、何か御用でも………?」
声を掛けると、ダンテは驚いたように目を見開いた。
「あ………いや、たまたま通りかかっただけだ。特に用事があった訳ではないんだ」
ダンテの素っ気ない態度に、声を掛けたのはまずかったのだろうかと、アンナはほんの少し不安になる。
ほんの少しでもいいから言葉を交わしたいと思ったが、彼に迷惑をかけてしまったのだろうか。
「………ブラマーニ家に潜入しているのだと聞いたが、………大丈夫なのか?」
声を潜めたダンテが、気遣うような表情で訊ねてきて、アンナは思わず瞠目した。
もしかして自分に会うためにここまで来てくれたのだろうかという、とんでもなく自意識過剰な考えがふと頭に浮かぶ。
何故そんな考えが浮かんだのか、自分自身が分からずに動揺したのだ。
「気に掛けて頂いてありがとうございます。ご覧のとおり、何も問題はありませんよ。でも、私のような者まで気に掛けて下さるなんて………騎士団長様はお優しいのですね」
動揺を隠すように、アンナはふわりと微笑んだ。
ダンテは優しい。
自分のような存在にもこうして心を砕いてくれる。
それは、自分だけに向けられているものではないと、分かっているつもりだった。
それなのに、どうしてこんなにも胸の奥が締め付けられるのだろう。
「あ………いや………、問題なければいいんだ。だが、まだ訓練を受けてから日が浅いのだから、無理はするな」
「ありがとうございます。伯爵夫人からこの任務をやり遂げたらクラリーチェ様の許に戻って良いとのお言葉を頂きましたので、多少辛いことがあっても頑張れます」
二人の間を、穏やかな風が駆け抜けていった。
その時、屋敷の方からアンナを呼ぶ声が聞こえて、アンナは振り返った。
「あ………呼ばれているみたいです。私はこれで失礼しますね。騎士団長様、クラリーチェ様をよろしくお願いします」
洗練された仕草でお辞儀をすると、アンナは逃げるように仕着せの裾を翻して小走りで公爵邸の中へと駆け込んだ。
変に、思われただろうか。
アンナは揺れ動く気持ちを落ち着かせようと、何度も何度も深呼吸を繰り返すのだった。
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