冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(19)

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手早く朝食を済ませたダンテは、普段足を踏み入れない王宮内の図書館へと出向いた。
朝の図書館は、静まり返り、利用する人の姿も疎らだった。

「おや、近衛騎士団長殿がいらっしゃるとは、珍しい事もあるものですな」

目当ての本を探して歩き回っていると、図書館の管理をしているレッジ子爵が声を掛けてきた。

「今日は、休息日でして………。たまには気分転換に、本でも読もうと…………」

もっともらしい理由を口にしながら、ダンテは困ったように視線を彷徨わせた。

「うむ、実に素晴らしいお考えですな。本は心を豊かに、そして時には思いもよらないようなアイディアを与えてくれますよ」

人の良さそうな温和な表情を浮かべたレッジ子爵は得意気な様子でそう語った。

「思いもよらないアイディア、か………」

まさにその為に図書館ここまで足を運んだと白状するのが憚られ、ダンテはなるほど、といった風に頷いた。

「子爵………、実は、その………妹がもう年頃なのですが、異性に対して全く興味がなくて困っているのです。それで、恋愛について分かるような書物があれば教えて頂きたいのですが………」

するとレッジ子爵は嬉しそうに顔を輝かせると、奥の書棚から二、三冊の本を取り出した。

「なるほど!リディア殿のことですな。近頃はよくクラリーチェ様の護衛としてこちらにも足を運ばれますから、私が直接お渡しして………」
「あ、いや!妹は恥ずかしがり屋なので、やはり兄である私から………!」

言っている事が滅茶苦茶な気がしたが、ダンテは必死にレッジ子爵を止めると、本を半ば強引に受け取った。

「ありがとう、レッジ子爵。この礼は必ずすると、約束しよう」
「だ、団長………?」

呆然とする子爵を尻目に、ダンテは早々に自室へと戻っていったのだった。


部屋に戻り、早速借りてきた本を開くと、そこには穏やかな恋物語が綴られていた。

「む…………」

ダンテは顔を顰めながらも、ゆっくりとページを捲っていく。
その恋物語は、今巷で人気の恋物語よりもずっと昔に書かれたもので、今も長く愛されているものだった。
貴族の青年と、年の離れた使用人の少女の話で、いつの間にか惹かれ合い、身分と年齢の違いを乗り越えて優しく穏やかな愛を育み、やがて結ばれるというストーリーだが、青年が娘に向ける愛は、決して激しく燃え上がるようなものではないが、穏やかだが深く強い愛で、どこかダンテの感情と類似する部分があった。

やはり、自分はアンナに恋をしているのだ。
それが分かると、無性にアンナに会いたくなり、ダンテは居ても立っても居られなくなり、厩舎へと向かったのだった。
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