冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(18)

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気がつくと、窓から朝日が差し込んでいた。
どうやら椅子に腰掛けたまま眠ってしまっていたらしい。
大きく伸びをすると、凝り固まった体がバキバキと音を立てた。

「まさか、うたた寝したまま眠ってしまうとは…………」

ダンテは自嘲の笑みを零すと、立ち上がった。
今日一日で、気持ちの整理をつけなければいけないと思うと、何とも言えない焦燥感に駆られる。
固まった肩を解すようにぐるぐると回しながら、顔を洗って鏡を覗き込んだ。

栗色の真っ直ぐな瞳が、鏡の向こうから己を睨み返してきた。
その眼差しはまるで揺らぐ己の心を叱咤しているようで、ダンテはほんの一瞬、怯んだ。
それと同時に、アンナがもし今の自分の姿を見たらどう思うのだろうと考えて、気恥ずかしくなる。
ふと、その時の表情が鏡に映し出されて、ダンテは暫し呆然とした。
鏡の中からこちらを見ている自分の表情は、毎日鏡で見ているものとは似ても似つかないような、とても穏やかで優しい顔をしていたのだ。

思わず、鏡に手を当てて見入った。
見たこともない自分の表情なのに、その表情には見覚えがあったのだ。

「これは、…………この表情は…………、母上を見つめる父上そのものじゃないか…………」

ダンテの両親であるコルシーニ伯爵夫妻は、貴族社会によくある政略結婚で結ばれた。
政治的な思惑により結ばれた関係だったか、それでもコルシーニ伯爵夫妻はとても仲睦まじく、お互いを思いやり、互いを尊重し合う素晴らしい関係を築いていた。
エドアルドとクラリーチェのような強い愛ではないが、静かな、そして穏やかな愛が二人の間には確かにあると感じていた。

そこまで考えて、ダンテははっとし、そして唐突に、理解した。
自分がアンナに対して抱いている感情の正体。…………それが、恋心だとか愛と呼ばれるものであるという事を。

「……………っ!」

たった数回会って、たった数回言葉を交わしただけの彼女に恋をしたという事実が、自分でも信じられなかった。
だが、エドアルドやテオのように一目惚れという事もあるのだから、特段おかしなことではないと自分に言い聞かせる。

騎士達が言っていたような動悸や息苦しさは全く感じないが、その代わりに安らぎのような、温和な感情が彼女を想うだけで心を満たす。
だが同時に、共にいられない苦しさや寂しさ、それに不安もおしよせてくる。
だが不思議な事に、そのどちらの気持ちも堪らなく愛おしく思えて、ダンテは静かに笑みを浮かべた。
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