冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(17)

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ラファエロの執務室から帰る途中に近衛騎士団の執務室に立ち寄つまたダンテは、今日はこれで仕事を切り上げる事と、エドアルドから下された勅命により明日も一日鍛錬場にも執務室にも顔を出すことが出来ないということだけを部下たちに伝えると、足早に自室へと戻った。

てっきり理由でも追求されるかと思っていたが、何故か誰も何も訊ねてこなかったことに、内心は少しだけ拍子抜けしていた。
ただ、明日のことを告げると、生温いような、憐れむような微妙な視線を向けられて、更には皆一様に口を揃えて「応援していますから!」と言ってきたのだけは不思議だった。

静かに扉を閉めると、深い溜息を一つついて、堅苦しい騎士服を乱暴に脱ぎ捨てて寝台の上へと放り投げた。
それから軽く体を清めて、清潔なリネンのシャツとよく馴染んだ黒のトラウザーズに着替えると、用意された水差しからグラスに水を注ぎ、一気に飲み干して心を落ち着かせようとした。
だが、そわそわとするような変に落ち着かない気持ちは変わらず、大きな手でガシガシと音がするほどに、短く刈り込んだ茶色い短髪に覆われた頭を掻いた。

「仕事を投げ出すのは………これで二度目だな…………」

独りそう呟くと、質素な椅子に腰を下ろして、両足をだらしなく投げ出した。
自分らしくない、というのはもう今さらだった。
誰もいない部屋の中で、まるで糸の切れた操り人形のように気怠げに椅子の背に凭れ掛かると、肘掛けに肘をつき、頬杖をした。
そして、静かに目を閉じると呼吸を整えてから、ラファエロの言葉を思い出してみる。

「他の誰とも違う存在、か…………」

それは、誰にでも当てはまる事だと思うが、ラファエロが言わんとしたのはそういう意味ではないのだろう。
それは理解出来るが、自分の中で上手く消化出来ないような、奇妙な感覚だった。
沈んでいく夕陽に照らされた部屋の中で、もう一度アンナの顔を思い浮かべてみると、やはり心の奥がじわりと温かくなるのを、はっきりと感じた。
それと同時に、脳裏に浮かんだアンナの柔らかく、眩しいその笑顔が心を支配していく。

いつ如何なる時も気の抜けない生活を長年送ってきたせいか、安らぎや安寧などもう忘れてしまっていたと思っていたのに、アンナを思い浮かべるだけで、穏やかな気持ちが湧き上がってくるようだった。
その気持ちが酷く愛おしく感じられて、ダンテは知らず知らずのうちに、真っ白なシャツの胸元を、ぎゅっと掴んでいた。
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