冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

文字の大きさ
上 下
225 / 268
番外編

騎士団長の恋愛事情(17)

しおりを挟む
ラファエロの執務室から帰る途中に近衛騎士団の執務室に立ち寄つまたダンテは、今日はこれで仕事を切り上げる事と、エドアルドから下された勅命により明日も一日鍛錬場にも執務室にも顔を出すことが出来ないということだけを部下たちに伝えると、足早に自室へと戻った。

てっきり理由でも追求されるかと思っていたが、何故か誰も何も訊ねてこなかったことに、内心は少しだけ拍子抜けしていた。
ただ、明日のことを告げると、生温いような、憐れむような微妙な視線を向けられて、更には皆一様に口を揃えて「応援していますから!」と言ってきたのだけは不思議だった。

静かに扉を閉めると、深い溜息を一つついて、堅苦しい騎士服を乱暴に脱ぎ捨てて寝台の上へと放り投げた。
それから軽く体を清めて、清潔なリネンのシャツとよく馴染んだ黒のトラウザーズに着替えると、用意された水差しからグラスに水を注ぎ、一気に飲み干して心を落ち着かせようとした。
だが、そわそわとするような変に落ち着かない気持ちは変わらず、大きな手でガシガシと音がするほどに、短く刈り込んだ茶色い短髪に覆われた頭を掻いた。

「仕事を投げ出すのは………これで二度目だな…………」

独りそう呟くと、質素な椅子に腰を下ろして、両足をだらしなく投げ出した。
自分らしくない、というのはもう今さらだった。
誰もいない部屋の中で、まるで糸の切れた操り人形のように気怠げに椅子の背に凭れ掛かると、肘掛けに肘をつき、頬杖をした。
そして、静かに目を閉じると呼吸を整えてから、ラファエロの言葉を思い出してみる。

「他の誰とも違う存在、か…………」

それは、誰にでも当てはまる事だと思うが、ラファエロが言わんとしたのはそういう意味ではないのだろう。
それは理解出来るが、自分の中で上手く消化出来ないような、奇妙な感覚だった。
沈んでいく夕陽に照らされた部屋の中で、もう一度アンナの顔を思い浮かべてみると、やはり心の奥がじわりと温かくなるのを、はっきりと感じた。
それと同時に、脳裏に浮かんだアンナの柔らかく、眩しいその笑顔が心を支配していく。

いつ如何なる時も気の抜けない生活を長年送ってきたせいか、安らぎや安寧などもう忘れてしまっていたと思っていたのに、アンナを思い浮かべるだけで、穏やかな気持ちが湧き上がってくるようだった。
その気持ちが酷く愛おしく感じられて、ダンテは知らず知らずのうちに、真っ白なシャツの胸元を、ぎゅっと掴んでいた。
しおりを挟む
感想 641

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。