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番外編
騎士団長の恋愛事情(14)
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考えれば考える程に、分からなくなる。
息苦しくなるような、感情の乱れなど感じたことはないし、胸の動悸も同様に感じたことはなかった。
だが、アンナの事を思い浮かべると、温かいような、まるで雨上がりの陽射しのような柔らかな感情が湧き上がってくるのは事実だ。
これが恋というものなのかと、思い切って部下に訊ねてみたのだが、違うのだろうか。
「……………団長……………?」
黙り込んたダンテに、騎士達は気まずそうに声を掛ける。
「…………分からない」
ぼそりと呟くと、ダンテはそのままフラフラと鍛錬場へと向かった。
悩み事や、気の迷いが生じたときは剣を振るい、己と向き合う時間を作るのが一番だからだ。
鍛錬場には先客がいた。
「陛下」
うっすらと額に汗を浮かべたエドアルドが一心不乱に剣を振るう姿が目に入り、ダンテは思わず声を掛けた。
「ダンテか。どうした?今日の鍛錬の時間はもう終わったのであろう?」
エドアルドは手を止めると、ダンテの方を振り返った。
「はい。………ですが、少々雑念を振り払いたくてですね……」
「雑念………?」
エドアルドは怪訝そうな表情を浮かべた。
「雑念、です」
不必要なくらいに大きな声で、ダンテは『雑念』というところだけを強調した。
エドアルドは少し驚いたようにダンテをすまじまじと見つめ、それから考え込むよにじっと腕組をした。
「………丁度いい。ダンテ、私と手合わせでもしないか?」
エドアルドが練習用の模擬刀を取るようにダンテに視線を送ると、ダンテは頷くと模擬刀を手に取った。
金属同士がぶつかり合う甲高い音が、鍛錬場に響き渡る。
「………その雑念とやらに振り回されて、迷っているのか?珍しく息が上がって、太刀筋も揺らいでいるぞ」
余裕の表情を浮かべたエドアルドが、鋭い攻撃を繰り出しながら訊ねてきた。
「迷いなのかも分からないから困っているんです!」
力任せに剣を振るうと、エドアルドはその勢いを上手く利用してダンテの剣をはじきとばした。
「…………っ!」
いくら相手がエドアルドとはいえ、こんなにも簡単に剣を奪われた事に、ダンテ自身が驚いた。
「分かったか?自分の心が今、どんな状態なのか」
呆然と立ち尽くすダンテに、エドアルドは歩み寄る。
「………明日一日お前は休暇を取れ」
「陛下!しかし………」
開港祭はもう目前だというのに、近衛騎士団長である自分に休暇を取れとはどういう了見なのだろうか。
しかしその答えはすぐに解った。
「その様子で作戦に関わるのは危険だという事くらい、自分でも分かっているだろう。少し頭を冷やして、明日のうちに自分の気持ちを整理しろ」
エドアルドの水色の双眸が、ダンテを射抜く。
おそらく、ラファエロから何かしらの情報が伝わったのだろう。
確かに、エドアルドの指示に反論すら出来ず、ダンテは口惜しげに俯いたのだった。
息苦しくなるような、感情の乱れなど感じたことはないし、胸の動悸も同様に感じたことはなかった。
だが、アンナの事を思い浮かべると、温かいような、まるで雨上がりの陽射しのような柔らかな感情が湧き上がってくるのは事実だ。
これが恋というものなのかと、思い切って部下に訊ねてみたのだが、違うのだろうか。
「……………団長……………?」
黙り込んたダンテに、騎士達は気まずそうに声を掛ける。
「…………分からない」
ぼそりと呟くと、ダンテはそのままフラフラと鍛錬場へと向かった。
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「はい。………ですが、少々雑念を振り払いたくてですね……」
「雑念………?」
エドアルドは怪訝そうな表情を浮かべた。
「雑念、です」
不必要なくらいに大きな声で、ダンテは『雑念』というところだけを強調した。
エドアルドは少し驚いたようにダンテをすまじまじと見つめ、それから考え込むよにじっと腕組をした。
「………丁度いい。ダンテ、私と手合わせでもしないか?」
エドアルドが練習用の模擬刀を取るようにダンテに視線を送ると、ダンテは頷くと模擬刀を手に取った。
金属同士がぶつかり合う甲高い音が、鍛錬場に響き渡る。
「………その雑念とやらに振り回されて、迷っているのか?珍しく息が上がって、太刀筋も揺らいでいるぞ」
余裕の表情を浮かべたエドアルドが、鋭い攻撃を繰り出しながら訊ねてきた。
「迷いなのかも分からないから困っているんです!」
力任せに剣を振るうと、エドアルドはその勢いを上手く利用してダンテの剣をはじきとばした。
「…………っ!」
いくら相手がエドアルドとはいえ、こんなにも簡単に剣を奪われた事に、ダンテ自身が驚いた。
「分かったか?自分の心が今、どんな状態なのか」
呆然と立ち尽くすダンテに、エドアルドは歩み寄る。
「………明日一日お前は休暇を取れ」
「陛下!しかし………」
開港祭はもう目前だというのに、近衛騎士団長である自分に休暇を取れとはどういう了見なのだろうか。
しかしその答えはすぐに解った。
「その様子で作戦に関わるのは危険だという事くらい、自分でも分かっているだろう。少し頭を冷やして、明日のうちに自分の気持ちを整理しろ」
エドアルドの水色の双眸が、ダンテを射抜く。
おそらく、ラファエロから何かしらの情報が伝わったのだろう。
確かに、エドアルドの指示に反論すら出来ず、ダンテは口惜しげに俯いたのだった。
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