冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(11)

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「母上!本気であの娘をブラマーニ公爵家に潜り込ませるおつもりですか?」

ダンテはその日のうちに外出許可を取り、コルシーニ伯爵邸へと戻った。

「静かになさい、ダンテ」

コルシーニ伯爵夫人は小さく溜息をつくと、息子に視線を投げかけた。

「私も止めようとはしたのです。あの娘は陛下から預かっているのですから、危険な目に遭わせるわけにはいきませんからね。………それでもアンナはどうしても、と………」
「つまり、あの娘は母上が止めるのも聞かなかったということですね?」

天真爛漫で、主思いの優しい娘だとばかり思っていたが、存外我の強いところもあるらしい。

「共に潜入させる者は選りすぐりの者を行かせる予定ですから、彼女に危害が及ぶ心配はないと、陛下に申し上げなさい。いいですね?」

どうやらコルシーニ伯爵夫人はエドアルドが心配してダンテを寄越したのだと思っているらしい。

その事実に、ダンテはふと我に返る。
そもそも自分は何故、こんなにもアンナのことを心配しているのだろうか。
個人的に親しいわけでもないし、顔を合わせて話したのも数える程度しかない。
部下でも無い、一介の侍女相手に何を動揺しているのだろう。

「………分かりました」

短く刈り込んだ栗色の髪をぐしゃぐしゃと掻き毟ると、ダンテはそのまますぐに王宮へと戻った。
こんなにも短絡的で、衝動的な行動を取ったことなど今まで一度もなかったのに、大事な職務まで放り出して、一体自分は何をしているのだろう。
馬を駆りながら自問自答するが、答えなど出なかった。


「おや?用事はもう済んだのですか?」

厩舎に愛馬を預けて宿舎に戻ろうとしていると、ラファエロに遭遇した。

「殿下…………」
「何だか覇気がありませんね。天下の近衛騎士団長の身に、一体何があったのです?」

いつもどおりの穏やかな笑みに、全てを見透かされている気がして、ダンテは表情が強張るのを感じた。

「………近頃あまりの多忙さに、少し思考回路がおかしいようで、自分自身が何を考えているのかよく分からなくなっていただけです」

曖昧に返事をすると、ラファエロの笑みは一段と深くなる。

「なるほど」

ただ一言そう呟くとラファエロは何故か頷いた。
不思議そうにダンテは眉根を寄せる。

「………あなたのその思慮深い性格は素晴らしいと思いますが、たまには自分の心にも目を向けてやらないと、大切な事を見落とすかもしれませんよ?」

すれ違いざまに、ラファエロがぽつりとそんな事を呟いた。

「どういう、意味でしょうか………?」

掛けられた言葉の意味が、全く理解が出来ずに慌てて振り返るが、ラファエロは背中を向けたまま、ひらひらと左手を振って見せただけだった。
ダンテはその後ろ姿を見つめながら、暫くその場に立ち尽くしていたのだった。
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