冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(10)

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それから暫くの間、ダンテは普段以上の職務に追われ、帰宅する暇は一切なかった。
というのも、クラリーチェのデビュタントという催しや、唯一の親族であったトゥーリ伯爵の自殺、その妻子の処刑と立て続けに事件が起きたせいで王宮も少し慌ただしかったからだ。

「………ブラマーニ公爵家とフェラーラ侯爵家に関係する者には、特に目を光らせるように」

部下達に指示を与えると、ダンテもまた足早に持ち場へと戻る。
数日前にエドアルドの執務室で顔を合わせた父から、ブラマーニ家の動きが活発化してきているという情報を聞き、警戒を強めていた。

「間もなく、開港祭か………」

歩きながら小さく溜息をつく。
ブラマーニ公爵の狙いはおそらく、王位の簒奪。
何かを仕掛けるつもりならば、間違いなく開港祭で行動を起こすはずだ。
諜報は両親や兄、それに他の影たちが担ってくれているお陰で、ダンテは近衛騎士団長としての職務に専念する事が出来た。

「………それは、大丈夫なのか?」
「そんな事、私に聞かないでください」

エドアルドの執務室へと入ると、エドアルドとラファエロが何やら難しい顔をしながら話し合っていた。

「おや、ダンテ。今日の近衛騎士達の鍛錬は終わったのですか?」
「はい」

穏やかな笑顔を浮かべているラファエロのすぐ側で、エドアルドが書類を睨めつけているのが目に入る。

「陛下?」

エドアルドがそういう顔をしている時は大抵、厄介事が発生した時だという事を、ダンテは知っていた。

「ダンテ。ちょうどお前に訊きたい事があったのだ。………お前の実家にいるクラリーチェの侍女を覚えているか?」
「え?ああ………」

すぐにダンテの頭の中にアンナの明るい笑顔が浮かぶ。
あの日以来彼女に会う事は無かったが、時折家族と顔を合わせた時に、何となく気になって彼女の近況は聞いていた。
先日父に会った時も、とても積極的に学んでいて、今からでも王の影の一員になれそうだという話を聞いたばかりだったが、彼女に何かあったのだろうか。

「あの………彼女が何か?」

何だか嫌な予感がした。

「………ブラマーニ公爵家への潜入に参加したいと、彼女が願い出たそうだ」
「……………!」

ダンテは栗色の瞳を大きく見開いた。
ブラマーニ公爵家への潜入調査。それは、ここのところ動きが活発になっている為、公爵家内部に使用人として入り込み、情報を得ようという計画。
ブラマーニ公爵家は、労働環境が良くないらしく頻繁に使用人が変わることで有名だという。
諜報活動が見破られた場合、当然命の保証は出来ないが、当主があのような人物という事も考慮すると、かなり危険な場所だ。
ダンテは、言い知れない不安が襲ってくるのを感じた。
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