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番外編
騎士団長の恋愛事情(8)
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「順調に、進んでいるのかい?」
アンナが淹れてくれたお茶を飲みながら、ダンテが尋ねると、アンナは笑顔を浮かべた。
「はい。毎日こちらで、色々と学ばせて頂いています。コルシーニ伯爵家の皆様は私のような平民の娘が相手でも、莫迦にしたりせずにきちんとご指導下さって………陛下にも、コルシーニ伯爵家の方々にも、本当に感謝しかありません」
邪気のない、穏やかな表情はその言葉が彼女の心からのものであることを示していた。
「我が家は、貴族の中でもかなり特殊なんだ。血筋ではなく実力至上主義だから、身分で人を判断したりしない。………それに、母は随分と君を気に入っているようだ。随分と君の事を褒めていたよ。きっとそれだけ君に見込みがあるということなんだろう」
するとアンナは立ったままゆっくりと首を左右に振ると、少し俯いた。
「………私のような者が、クラリーチェ様にお仕えしたいと望むのは、烏滸がましいにも程があると、分かっています。クラリーチェ様は間もなく王妃様になられる方で………私は、身寄りのない平民で………。だから、陛下からこのお話を頂いた時に、頑張ればその望みも叶うんじゃないかって………。そんな疚しい気持ちを持っているのが、少し後ろめたくもあるんです」
俯いたせいで、アンナの表情はダンテからは覗えなかったが、僅かに声が震えているようだった。
国王に見向きもされなかった冷遇側妃の、平民出身の侍女。
彼女がそうした立場で過ごしていたのは一年あまりという期間だったが、それは彼女の心に暗い影を落としているのが伝わってきた。
「後ろめたさなんて、いらないと思うけれど?」
「…………え?」
ダンテがぽつりと落とした言葉に、アンナははっと顔を上げた。
「君の、主を慕う気持ちに嘘偽りなどない。君は真剣に主を想っているのに、その事に対して疚しさなんて感じる必要などないと私は思うけれどね」
「それは…………」
アンナは動揺しているようで、何度も瞬きを重ねる。
ダンテはそんなアンナの様子を観察しながら話を続けた。
「君は………陛下が認め、母が認めた逸材なんだ。負い目を感じる必要なんて、一切ない。堂々と胸を張って、ジャクウィント女侯爵の為に頑張ればいい」
アンナを励ますように、一言一言に気持ちを込めると、アンナはじっと何かを考えた後、ふわりと微笑んだ。
それは、まるでそこに向日葵がぱっと咲いたかのような錯覚をダンテに与える程、明るくて純粋な、それでいて鮮烈な笑顔だった。
アンナが淹れてくれたお茶を飲みながら、ダンテが尋ねると、アンナは笑顔を浮かべた。
「はい。毎日こちらで、色々と学ばせて頂いています。コルシーニ伯爵家の皆様は私のような平民の娘が相手でも、莫迦にしたりせずにきちんとご指導下さって………陛下にも、コルシーニ伯爵家の方々にも、本当に感謝しかありません」
邪気のない、穏やかな表情はその言葉が彼女の心からのものであることを示していた。
「我が家は、貴族の中でもかなり特殊なんだ。血筋ではなく実力至上主義だから、身分で人を判断したりしない。………それに、母は随分と君を気に入っているようだ。随分と君の事を褒めていたよ。きっとそれだけ君に見込みがあるということなんだろう」
するとアンナは立ったままゆっくりと首を左右に振ると、少し俯いた。
「………私のような者が、クラリーチェ様にお仕えしたいと望むのは、烏滸がましいにも程があると、分かっています。クラリーチェ様は間もなく王妃様になられる方で………私は、身寄りのない平民で………。だから、陛下からこのお話を頂いた時に、頑張ればその望みも叶うんじゃないかって………。そんな疚しい気持ちを持っているのが、少し後ろめたくもあるんです」
俯いたせいで、アンナの表情はダンテからは覗えなかったが、僅かに声が震えているようだった。
国王に見向きもされなかった冷遇側妃の、平民出身の侍女。
彼女がそうした立場で過ごしていたのは一年あまりという期間だったが、それは彼女の心に暗い影を落としているのが伝わってきた。
「後ろめたさなんて、いらないと思うけれど?」
「…………え?」
ダンテがぽつりと落とした言葉に、アンナははっと顔を上げた。
「君の、主を慕う気持ちに嘘偽りなどない。君は真剣に主を想っているのに、その事に対して疚しさなんて感じる必要などないと私は思うけれどね」
「それは…………」
アンナは動揺しているようで、何度も瞬きを重ねる。
ダンテはそんなアンナの様子を観察しながら話を続けた。
「君は………陛下が認め、母が認めた逸材なんだ。負い目を感じる必要なんて、一切ない。堂々と胸を張って、ジャクウィント女侯爵の為に頑張ればいい」
アンナを励ますように、一言一言に気持ちを込めると、アンナはじっと何かを考えた後、ふわりと微笑んだ。
それは、まるでそこに向日葵がぱっと咲いたかのような錯覚をダンテに与える程、明るくて純粋な、それでいて鮮烈な笑顔だった。
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