冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(6)

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「ダンテ。たまには家に帰ったらどうですか?」

午後の鍛錬が終わった後、汗を拭いながらラファエロがそんな提案をしてきた。

「もしや、朝方の母との会話を気にされているのですか?」

ラファエロが、暫く家に帰っていないと公言したダンテに気を使っているのだろうという事は何となく察せられた。

「いや、そういう訳ではないのですか………。我が国を陰ながら支えてくれる近衛騎士団長の働きはよく分かっているつもりですので、労いが必要ではないかと考えただけで、他意はありませんよ?」

飄々とした態度でそう答えたラファエロはいつもどおりの穏やかな笑顔を浮かべていた。

「………お気持ちは、大変嬉しいです。しかしそれと休暇とは話が別では………?」

ラファエロの真意が見えてこず、ダンテは戸惑う。

「それに、私は休暇など必要ありません。仕事を何よりの生き甲斐にしておりますので」

きっぱりとそう告げるが、ラファエロが全く表情を変えないところをみると、ダンテの返答は彼の予想の範疇だったのだろう。

「ねぇ、ダンテ?確かに仕事をこなすというのは、とても大切な事ですけれど、たまには息抜きをしないと、効率が下がるのだそうですよ。特にあなたの職務内容はとてもハードですし」

つまり、ラファエロは何が何でもダンテに休暇を取らせて伯爵邸に返したいのだという事だけははっきりと分かった。

「それに、コルシーニ伯爵夫人もあれだけの会話しか出来なかったのですから、きっと寂しく思われている事でしょう。きちんと親孝行をして差し上げてください」

ほんの少し、ラファエロの笑みが深くなった気がした。

ラファエロは、彼がこの世に生を受けた翌日に生母を亡くし、父親をつい先日亡くしたばかりだ。
だからこそ、ラファエロの言葉は殊の外重みがあった。

「………分かりました」

とうとう根気負けしたダンテは嘆息しながら頷いた。

「但し、丸一日予定を空けるのは難しいでしょうから、朝の鍛錬が終わったら実家に帰り、夜警の交代までには戻って参ります」
「…………本当に、呆れるほど仕事熱心ですね。まあそれはきっとコルシーニ伯爵家の血筋のせいでしょうし、あなたの美点でもありますが」

不思議なことに一瞬、ラファエロの唇が何か別の言葉を紡いだように見えた。
だが、それを確かめる術は皆無だった。
もしかしたら、気の所為だったのだろうか。



ラファエロは穏やかな笑顔を貼り付けた顔を、満足そうに緩めたのだった。
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