冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

騎士団長の恋愛事情(4)

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「あの娘、思った以上に骨がありますわ」

アンナがコルシーニ伯爵家に来てから二週間程に経ったある日の事だった。
エドアルドの元へ向かう途中、ラファエロの執務室から聞き慣れた声が聞こえてきて、ダンテはふと足を止めた。

「それに、かなり筋も良いです。流石にうちの娘のレベルまで育て上げるのは難しいかもしれませんが………あれ程の逸材が八年もの間、あの後宮魔窟に埋もれていたというのは悔やまれますわ。ああ………今の後半の部分は聞かなかった事にしてくださいませ」

話の内容から、アンナの件で報告に来たのだと理解し、ダンテは少しだけ開いた扉をノックする。

「失礼します。母上の声がしたので、声を掛けさせて頂きました。………母上が登城するのは珍しいですね」

どうせ聞き耳を立てていたとしても、母が気が付かない訳がない。後で叱られる位なら、清々正面から向かったほうが安全だという事を、ダンテはよく分かっていた。

「まあ、ダンテ。あなたは職務中ではないのですか?」

鋭く光る栗色の瞳をちらりとダンテに向けた伯爵夫人は、ほんの少し呆れたような表情を浮かべる。

「中々家に帰ることが出来ないもので………。折角王宮に母上がいらっしゃるのですから顔を出さねば、それは親不孝と言うものでしょう?」

今度は夫人はうっすらと笑みを浮かべた。
元々、あまり表情を動かすことがない伯爵夫人は表情が乏しい冷たい人間だと誤解されがちだが、実はとても愛情深く、子供の殆どが成人した今でも甘えてほしいと思っている事を知っているダンテは母が喜びそうな言葉を選んだのだ。

「随分と口が達者になった事。………まぁいいわ。今ちょうどあなたが陛下から預かってきたあの娘についての報告を殿下にしていたところなのですよ」
「ええ、そのようですね。聞こえてきました」
「アンナの話が聞こえてきたから、わざわざ入室してきたのですか?」

親子の会話に割って入ったのは、他でもないラファエロだった。

「そうではありません!………先程も申し上げたとおり、母の声がしたので………っ」

事実を述べているだけだというのに、喋れば喋るほどに言い訳に聞こえるような気がして、ダンテは焦る。
アンナに対して何か特別な感情を抱いているわけではないのに、何故額に妙な汗が浮かんでくるのだろうか。
ダンテは訳がわからずにただ必死に弁明を繰り返した。

「いいんですよ、そんなに必死にならなくても。彼女、とても可愛らしいお嬢さんですよね」

まるで揶揄うかのように、ラファエロは艶やかな笑顔を浮かべた。
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