冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(20)

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キエザへと帰国してすぐに、テオはコルシーニ伯爵邸を訪れた。彼の傍らには、リディアの姿もあった。

「………スカリオーネ伯爵家の小僧か」

コルシーニ伯爵は、栗色の、鋭い眼差しをテオに向けた。
いつになく真剣な眼差しを伯爵へと向けたテオの様子に、リディアは胸が高鳴るのを感じる。

「約束は、果たしたのか?」

唐突に紡がれた、いつになく険しい表情の父の言葉の意味が理解出来ず、リディアは困惑してテオを見た。
しかしテオは揺らぐことなく、真っ直ぐにコルシーニ伯爵を見据えたままだった。

「はい」

たったそれだけの短い返事をテオが返すと、ほんの少しコルシーニ伯爵の表情が緩んだように見えた。

「あの…………テオ様……………?お父様…………?」

空気を読み取り、状況判断をするのが得意なはずのリディアにも、一体何の話をしているのかが全く理解できずに困惑する。
コルシーニ伯爵は、ちらりとリディアを見てから薄い唇を開いた。

「………リディア。お前は、スカリオーネの小僧をどう思っている?」

突然投げかけられた、思いもよらない質問に、リディアは父の真意を探ろうとコルシーニ伯爵をじっと見つめ、それからテオに視線を移した。
そんなリディアの気配を察知したかのように、テオの灰色の瞳がリディアに向けられ、そして彼の顔にふわりと笑顔が浮かんだ。
まるで、大丈夫だと耳元で囁かれているような錯覚を覚え、リディアも自然と笑みを浮かべる。

「…………私は、テオ様の事を心からお慕いしております」

尊敬と畏怖の対象である父に、己の素直な恋愛感情を伝えるのは、むず痒いような、気恥ずかしいような、何とも居心地の悪い気分だった。
ほんの少し目を伏せると、テオの手が、リディアのそれに触れる。
縋るような気持ちで、リディアはすかさず彼の指に己の指を絡め、握りしめた。

「…………そうか」

溜息と共に、ただ一言そう呟いたコルシーニ伯爵は、いかめしいその顔に満足気な、けれどもどこか寂しそうな笑みを薄っすらと浮かべた。

「スカリオーネの小僧………。お前の言葉は、確かに真実だったようだ。後の手続きについては、お前の両親も立ち会いの元で進める」
「はいっ、ありがとうございます!」

握ったテオの手に力が籠もり、テオはコルシーニ伯爵に向かって騎士の礼をとった。

「…………幸せにしなければ、お前の命はないと思え」

ぼそりと落とされた父の呟きで、漸くリディアは状況を理解した。

「はい。必ず幸せにすると、約束します!」

力強く答えたテオは、呆れたような表情を浮かべるリディアに、少しだけ悪戯っぽいような笑顔を向けたのだった。
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