冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

文字の大きさ
上 下
206 / 268
番外編

リディアの恋(20)

しおりを挟む
キエザへと帰国してすぐに、テオはコルシーニ伯爵邸を訪れた。彼の傍らには、リディアの姿もあった。

「………スカリオーネ伯爵家の小僧か」

コルシーニ伯爵は、栗色の、鋭い眼差しをテオに向けた。
いつになく真剣な眼差しを伯爵へと向けたテオの様子に、リディアは胸が高鳴るのを感じる。

「約束は、果たしたのか?」

唐突に紡がれた、いつになく険しい表情の父の言葉の意味が理解出来ず、リディアは困惑してテオを見た。
しかしテオは揺らぐことなく、真っ直ぐにコルシーニ伯爵を見据えたままだった。

「はい」

たったそれだけの短い返事をテオが返すと、ほんの少しコルシーニ伯爵の表情が緩んだように見えた。

「あの…………テオ様……………?お父様…………?」

空気を読み取り、状況判断をするのが得意なはずのリディアにも、一体何の話をしているのかが全く理解できずに困惑する。
コルシーニ伯爵は、ちらりとリディアを見てから薄い唇を開いた。

「………リディア。お前は、スカリオーネの小僧をどう思っている?」

突然投げかけられた、思いもよらない質問に、リディアは父の真意を探ろうとコルシーニ伯爵をじっと見つめ、それからテオに視線を移した。
そんなリディアの気配を察知したかのように、テオの灰色の瞳がリディアに向けられ、そして彼の顔にふわりと笑顔が浮かんだ。
まるで、大丈夫だと耳元で囁かれているような錯覚を覚え、リディアも自然と笑みを浮かべる。

「…………私は、テオ様の事を心からお慕いしております」

尊敬と畏怖の対象である父に、己の素直な恋愛感情を伝えるのは、むず痒いような、気恥ずかしいような、何とも居心地の悪い気分だった。
ほんの少し目を伏せると、テオの手が、リディアのそれに触れる。
縋るような気持ちで、リディアはすかさず彼の指に己の指を絡め、握りしめた。

「…………そうか」

溜息と共に、ただ一言そう呟いたコルシーニ伯爵は、いかめしいその顔に満足気な、けれどもどこか寂しそうな笑みを薄っすらと浮かべた。

「スカリオーネの小僧………。お前の言葉は、確かに真実だったようだ。後の手続きについては、お前の両親も立ち会いの元で進める」
「はいっ、ありがとうございます!」

握ったテオの手に力が籠もり、テオはコルシーニ伯爵に向かって騎士の礼をとった。

「…………幸せにしなければ、お前の命はないと思え」

ぼそりと落とされた父の呟きで、漸くリディアは状況を理解した。

「はい。必ず幸せにすると、約束します!」

力強く答えたテオは、呆れたような表情を浮かべるリディアに、少しだけ悪戯っぽいような笑顔を向けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。