冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(19)

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テオの大きな手に力が込められ、リディアの体がテオに密着する。

「どんな時でも、笑ってさえいれば…………必ず好機が訪れるのだと、幼い頃から母に教えられてきました。それは、正しかったということですね」

どこか誇らしげな笑顔に、リディアは微笑みを返した。

「素敵な、教えですね」
「コルシーニ伯爵家程の家族の結束や、当主への忠誠は我がスカリオーネ伯爵家にはありませんが、家族の仲は良いんですよ」
「それは、テオ様を見ていれば分かります」

吐息が触れる程の距離で、テオの綺麗な灰色の瞳が真っ直ぐにリディアを映している。
どんなに冷たくしても、彼はいつだって真っ直ぐだった。
そのひたむきさにも、惹かれていたのだとリディアは改めて気がついて、何だか擽ったいような気持ちになった。

「…………あの」

どれ位の間、見つめ合っていただろうか。
徐にテオが口を開いた。

「その…………口付けをしても、良いでしょうか?」

躊躇いがちに紡がれた言葉に、リディアは一瞬きょとんとしてから、思わず声を出して笑い始めた。
その様子に、テオは顔を赤らめたまま、呆然とリディアの顔を眺めていた。

「…………そういう事は、伺いなど立てずにするものだと思います」

一頻り笑うと、リディアはゆっくりと呼吸を整える。

「え………?あっ、そ………そうですよね!申し訳ありません!雰囲気とか、そういうの全然考える余裕がなくて…………っ」

リディアに指摘されて、テオは恥ずかしそうにぱっと顔を背けようとした。
だが、それを阻むようにリディアが己の額をテオのそれにくっつけた。

「リ…………リディア嬢…………?」

更なる戸惑いの色が、テオの双眸に宿った。

「………して、いいです」

栗色の瞳に月光が差し込み、優しい光が浮かび上がる。

「え…………?」
「だから、口付けをしてもいいです」

ほんの少しの恥じらいと、たくさんのいとおしい気持ちを込めて、リディアは囁いた。
するとすぐ目の前で、テオの灰色の瞳が大きく見開かれ、そしてゆっくりと閉じていくのを見た。
その動きにつられるように、リディアもゆっくりと目を閉じる。

唇に温かいものが触れたかと思うと、じわりとそこからテオの体温が伝わってくる。
まるで体中の神経が、口唇そこに集中していくかのような錯覚に囚われた。

生まれて初めて交わす、口付け。
護衛兼侍女という立場上、エドアルドとクラリーチェが交わす口付けは嫌というほどに見ているが、こんなにも優しくて、こんなにも気持ちのいいものだなど、想像もしなかった。
リディアは、心の中が今迄知り得なかった何かに満たされていくのを感じながら、そのままテオに身を任せたのだった。
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