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番外編
リディアの恋(18)
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「………お待ち頂く必要など、ありません」
自分でも驚くくらい、声が震えていたが、それでもリディアは言葉に想いを込めていく。
「そう、ですよね」
テオは相変わらず切なげな笑顔を浮かべて見せた。
「お待ち頂かなくても、私の心は既にあなたのものですから」
リディアは、耳まで真っ赤に染めながら、ただそれだけ呟くと、恥ずかしさのあまり視線を逸した。
「…………………………え?」
暫しの沈黙の後、聞いたこともないような間抜けな声が、テオの口から零れた。
そっと彼の方へと視線を戻すと、テオは瞠目し、ものの見事に固まっていた。
テオの思いがけない様子に、リディアは先程自覚したばかりの感情が、更に大きく膨れ上がるのを感じた。
感情に、流されてはいけない。
常に冷静さを保て。
客観的に物事を判断しろ。
物心ついた時からずっと、両親に叩き込まれてきた教えの一つ一つが、ガラスが砕け散るかのように全て自分の中から消え失せて、その代わりに湧き起こってきた激しい情動がリディアを突き動かすようだった。
リディアは軸足に体重を掛けると、数歩先の距離に立つテオに向かって、勢いよく踏み込み跳ね上がったかと思うと、逞しいテオの身体に飛びこんだ。
「リ、リディア嬢っ?!」
あまりにも突然のリディアの行動に、さすがのテオも慌てた様子だったが、リディアは構わずにぎゅうっとテオにしがみついた。
激しく狼狽しながらも太い首にぶら下がるリディアが落ちないように、彼女の身体にしっかりと手を回す。
「私もテオ様の事が好きだと、申したげたのです。喜んで、下さらないのですか?」
今度ははっきりと、テオに伝わるように言葉を選ぶ。
恋物語の主人公のような、可愛らしい言葉は言えなくとも、自分の気持ちをテオにきちんと伝えたいと心から思った。
微かに潤んだリディアの栗色の瞳がテオの綺麗な灰色の眸を覗き込むように見つめると、ゆっくりとテオの強張った表情が緩んでいく。
それは、まるで永久凍土のようだったリディアの恋心を溶かした優しい春の光のような笑顔へと変わっていく。
「…………嬉しすぎて、どうやって喜べば良いのか分からないのです」
月に照らし出されたテオの顔も、赤く染まっているのがはっきりと見て取れた。
「………リディア嬢に、嫌われたと思っていました」
「私も、あなたの事が嫌いなのだと思っていました。お兄様の信頼を勝ち得て、陛下の護衛まで任される位の力があるのに、いつもヘラヘラ笑っているあなたに無性に腹が立って…………。でも、それは私の勘違いで………いつの間にか、あなたの朝日のような眩しい笑顔に囚われていたみたいです」
羞恥心も自尊心もかなぐり捨てて、自分の気持ちを心のままに口にすると、心の中の靄が消え、表現し難いような晴れやかな感覚が広がっていく。
リディアは清々しい気持ちで、大好きな笑顔をじっと見つめた。
自分でも驚くくらい、声が震えていたが、それでもリディアは言葉に想いを込めていく。
「そう、ですよね」
テオは相変わらず切なげな笑顔を浮かべて見せた。
「お待ち頂かなくても、私の心は既にあなたのものですから」
リディアは、耳まで真っ赤に染めながら、ただそれだけ呟くと、恥ずかしさのあまり視線を逸した。
「…………………………え?」
暫しの沈黙の後、聞いたこともないような間抜けな声が、テオの口から零れた。
そっと彼の方へと視線を戻すと、テオは瞠目し、ものの見事に固まっていた。
テオの思いがけない様子に、リディアは先程自覚したばかりの感情が、更に大きく膨れ上がるのを感じた。
感情に、流されてはいけない。
常に冷静さを保て。
客観的に物事を判断しろ。
物心ついた時からずっと、両親に叩き込まれてきた教えの一つ一つが、ガラスが砕け散るかのように全て自分の中から消え失せて、その代わりに湧き起こってきた激しい情動がリディアを突き動かすようだった。
リディアは軸足に体重を掛けると、数歩先の距離に立つテオに向かって、勢いよく踏み込み跳ね上がったかと思うと、逞しいテオの身体に飛びこんだ。
「リ、リディア嬢っ?!」
あまりにも突然のリディアの行動に、さすがのテオも慌てた様子だったが、リディアは構わずにぎゅうっとテオにしがみついた。
激しく狼狽しながらも太い首にぶら下がるリディアが落ちないように、彼女の身体にしっかりと手を回す。
「私もテオ様の事が好きだと、申したげたのです。喜んで、下さらないのですか?」
今度ははっきりと、テオに伝わるように言葉を選ぶ。
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微かに潤んだリディアの栗色の瞳がテオの綺麗な灰色の眸を覗き込むように見つめると、ゆっくりとテオの強張った表情が緩んでいく。
それは、まるで永久凍土のようだったリディアの恋心を溶かした優しい春の光のような笑顔へと変わっていく。
「…………嬉しすぎて、どうやって喜べば良いのか分からないのです」
月に照らし出されたテオの顔も、赤く染まっているのがはっきりと見て取れた。
「………リディア嬢に、嫌われたと思っていました」
「私も、あなたの事が嫌いなのだと思っていました。お兄様の信頼を勝ち得て、陛下の護衛まで任される位の力があるのに、いつもヘラヘラ笑っているあなたに無性に腹が立って…………。でも、それは私の勘違いで………いつの間にか、あなたの朝日のような眩しい笑顔に囚われていたみたいです」
羞恥心も自尊心もかなぐり捨てて、自分の気持ちを心のままに口にすると、心の中の靄が消え、表現し難いような晴れやかな感覚が広がっていく。
リディアは清々しい気持ちで、大好きな笑顔をじっと見つめた。
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