冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(17)

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テオの、少し掠れたような声が紡ぎ出す言葉が、まるで一度味わったら忘れられない麻薬のように、リディアの鼓膜に甘やかな刺激を齎した。
そして、それはじわじわと耳を通して、全身に広がっていく。

「あの…………」

何か言わなければと思って口を開くと、吐息と共に零れ出たのは弱々しくか細い、何とも頼りない呟きだった。
これでは、まるで力のない普通の少女のようだという事に気が付き、リディアは愕然とする。
一体自分はどうしてしまったのだろう。

頬は熱くて、胸も苦しい。
それなのに具合が悪いどころか心の中が今まで感じたことのないような得も言われぬような幸福感に満たされていくのが、不思議だった。

「あなたが、私の事を恋愛対象として見ていないというのは分かっています。だから、いつかあなたに認めてもらえるような立派な騎士になろうと、精進してきたつもりですが…………、あなたは私に意識すら向けてくださらなくて」

優しい風が、二人の間を駆け抜けた。
リディアの栗色の髪が、月の輝く夜空に舞い上がる。

「それでも、あなたを想わない日はありませんでした。…………今回の視察旅行の護衛は、漸く掴んだチャンスだと思ったんです。………こんな邪な気持ちで任務に当たっていただなんて、呆れますよね」

ほんの少し、悲しそうにテオの顔が歪む。
それを見たリディアは、心臓がきゅっと縮むような、切ない疼きを感じた。

「…………いつまででも、待ちます。誰が何と言おうと、私が共に有りたいと望む女性はあなたしかいないんです、リディア嬢。私を選んでほしいだなんて、言いません。リディア嬢にそれを強要したくはないんです。………でも、私の気持ちを覚えていてください」

一言一言、丁寧に紡ぎ出された言葉には、テオの真心が籠もっているようだった。
ゆっくりと口を閉ざした後、テオは先程よりも苦しげに、しかしどこかすっきりとした穏やかな顔で笑った。
そんなテオを見つめていたリディアは、何故か無性に泣き出したい衝動に駆られたが、ぐっと奥歯を噛み締めてそれを堪えると、溜息をついて自分を落ち着かせると、透き通った栗色の瞳に今までとは違う優しい光が浮かび上がった。

テオの表情を見て、ここ数日リディアの心を苛んでいた感情の正体を漸く自覚した。
テオ・スカリオーネという存在が自分の中でこんなにも大きくなっていたというのに、どうして今の今まで気が付かなかったのだろう。
自分自身の鈍さに呆れながら、リディアは静かに微笑みを浮かべた。
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