冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(16)

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ひんやりとした冷たい夜風が、バルコニーへと姿を現したテオとリディアの頬を撫でる。

「あまり顔色が良くないみたいですが、寒くはありませんか?」
「………ええ。久しぶりの舞踏会なので、緊張しているだけですから、心配無用です」

ガラスの扉を一枚隔てただけだというのに、会場の熱気や賑やかさはあまりつたわってこなかった。
舞踏会が始まったばかりだからか、他にバルコニーにも人影は見当たらない。
その事実に、リディアは何だか落ち着かない気分になった。

ふと空気が動いて、リディアは条件反射的に身構える。
すると、テオがリディアの隣へと歩み寄って来て、横に並んだ。

「…………良かった…………。私と一緒にいるのが嫌なのだと言われたら、どうしようかと不安に思っていたのです」

柔らかな笑みが咲き、リディアはまた心臓が大きく跳ねるのを感じた。

「………嫌なら、あなたと話すことすらも拒否したでしょうね」

紡ぎ出す言葉はやはり可愛げのないもので、リディアは自己嫌悪に陥る。
いくらでも、違う言い方など出来るはずなのに、上手くいかない。
少しでもしおらしく、或いは素直に、考えていることを伝える術を知っていればと後悔した。

「拒否されなかったと言うことは…………、少しは希望を持ってもいいのでしょうか」
「…………え?」

隣にいたテオが突然身を屈め、耳元に落とした言葉に、リディアは驚きに肩を揺らした。

テオの言葉の意味が理解出来ない。希望とは、一体何のことを言っているのだろう。

「あの…………?」

怪訝そうに眉を顰めると、テオはリディアの真正面に立った。
リディアの背後から降り注ぐ月光が、テオの精悍な顔を照らし出した。
頬が僅かに赤く見えるのは、光の加減のせいなのだろうか。

「………リディア嬢。もう少しこの気持ちは胸に秘めておこうかと思っていたのですが…………もう我慢するのは無理そうです」

テオの灰色の瞳が、切なげに揺れた。
その揺らめきから目が離せなくて、リディアはまるで金縛りにあったかのようにその場に立ち尽くした。

「あなたが、好きです」

優しい声で綴られた言葉に、リディアは目を見開いた。

今のは、聞き間違いだろうか。
それとも、自分の願望が引き起こした幻聴だろうか。
もしかしたら、夢を見ているのかもしれない。
そんなどうしようもないことを考えながら、呆然とテオを見つめる。

「近衛騎士になって間もない頃、あなたをお見かけしてから、ずっと………あなたを見ていました」

テオは真っ直ぐにリディアを見据えた。
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