冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(15)

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「…………リディア嬢?どうされました?」

呆然としたリディアの様子に、テオが心配そうに声を掛けてきた。

「あ…………」

普段どおりに素っ気なく振る舞おうとするのに、喉のところで詰まってしまったように、上手く言葉が出てこない。
それどころか、混乱と不安で頭の中が一杯で、自分の心が自分のものではなくなってしまったような錯覚にすら囚われる。

「…………クラリーチェ様に、見惚れていただけですわ」

精一杯声を振り絞った結果、口をついて出てきたのは尤もらしい言い訳で、リディアは取り敢えず安心した。

「リディア嬢は、本当に妃殿下がお好きなのですね。確かに見惚れるのは分かります。…………でも、陛下に見惚れていたのではなくて、良かったです」

そう零すテオの表情は、確かに安堵の笑顔に変わったように見えた。

しかし、リディアがエドアルドに見惚れていたら何故テオに不都合があるのだろう。
小首を傾げるリディアに、テオはゆっくりと視線を合わせた。

「…………何だか、暑いですね。少し風に当たりに行きませんか?」
「え…………っ?」

それは、舞踏会や夜会で男性が女性をバルコニーへと誘い出す為の常套句だった。
そして、舞踏会のバルコニーは恋人たちが愛の告白をする為の舞台でもある。
大抵の令嬢はデビュタント前に母親から『意中の男性以外とは、二人きりでバルコニーへ出てはいけない』と教わる。
当然、リディアもコルシーニ伯爵夫人からその事を言い含められていたが、実際舞踏会に出席することは殆ど無かったし、よもや自分にそのようなシチュエーションが訪れる日が来るなどとは思ってもみなかった。
しかも、その相手はテオ。
リディアの頭の中はいよいよ混乱し始めた。

煙水晶のように美しくシャンデリアの光を反射して煌めくテオの瞳は、完全にリディアの心を掴んで離さない。

「………で、でも…………っ、クラリーチェ様の護衛が…………」

何とか冷静さを取り戻そうとするが、やはり心がざわめいていつもどおりにはいかない。

「その点については心配しなくても大丈夫ですよ。………護衛の仕事は今日はオズヴァルドの近衛騎士達が引き受けてくださいましたし、それに会場には団長とアンナ嬢もいらっしゃいますから、我々が少し位抜けた所で全く問題はありませんから」

いつものテオとは違い、優しい笑顔ではなく、まるで有無を言わさず、リディアの逃げ道を塞いでいくかのような、強引さを持った笑顔がテオの顔に浮かべられていた。
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